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『通貨の正体』(浜 矩子 集英社新書 2019年)

 金融、経済学者の著者の本としては、ちょっと変な名前だが読んでみると、なるほど、と納得する。しかし、反論も含む論の展開は四角四面で、どこまでも続きそうな軽さも伴っている。学者でない者には、何とも孤絶した印象を与える本である。

 これらの知見を把握しておかないと、世界の金融・経済は語れないだろうことは分かるが、何とも速い。それだけ速く明開でなければ、現実について何かを発言したことには、ならないのか。

いや、その速度も分かるのだが、もうちっとゆっくり確かめながら進もうようよ、という気持ちになった。にしても、ハッキリした主張であるし、既存の物語を対比して、イメージはつかみやすい。

 私としては、もっと複雑な人の心の方が、世の中を活性化させるように思ったのだが、それでは統制がとれないだろう。難しいものである。


by ihatobo | 2019-03-29 09:39

『老いと記憶』(増本康平 中公新書 2018年)

 両親の介護の日々を、思い出しながら読んだ。日々の体験は時が経たないと、客観視できないモノで母を亡くして8年、父は翌年に亡くしたので丁度、七回忌である。加齢で得るもの失うものという副題がついている本書、思い当たる節が随所にある。

 そして、自分自身の年齢を対応させながら見てゆくと、まさにその通りという記述があった。つまり、この先20年、30年が見通せるのだ。色々な終末医療本があるが、私は作家ものを含めて、ほとんど見ていない。

 というのも、前回書いたように事実が知りたいからだ。その為には、医者の記述は信用できると思った。医者にも各々専門があるが、著者は認知心理、神経心理を収めた高齢者心理学。

古い友人に心療内科医がいるが、私は常々「老人科」を作ってはしいと願ってきたので、本書は、まさに、その実践記録として読むことが可能である。いわば、記憶も忘却も自分だけのものにせず、身近な人々と分けあうことが、肝心だということである。

ドタバタとモメゴトを、日々重ねてゆく心の強さを持とうと私は思った。


by ihatobo | 2019-03-22 10:16

「すごい片付け」(はづき虹映 河出文庫 2014→18年)

 私の学生時代の「ジャズ喫茶」には、いくつかの共有されたルールがあって、毎年717日にはジョン・コルトーンに線香を焚く、というのも、その1つだった。

実際に、その命日に、お線香を焚くというのではなく、その日は一日中コルトーンを流し続けるということだったが、ある種、年中行事になっていた。他にマンガの主人公が劇中でなくなると、同好が集まって祭壇を急造したりしていた。こちらは主催したのが、寺山修司だったと思う…。

 そんななかで、コルトーンのアルバムは全種類揃えている、という店があって、当時出回っていたストックフォルムのライブ盤を聴きに出かけたりした。

それから、私がバイトをしていた店の店主は、スポーツ刈りの天辺(てっぺん)に、Cの刈り込みを入れてご満悦だったし、少し上の世代ではロリンズに肖って(あやかって)モヒカンの兄さんたちもいた。

 肖かるというのは、辞書を引いたのだが、要するにマネをすることで真似と書く。真似は当然対象のカタチを真似るわけだが、このカタチが本書のいう片付けのカタに通じるらしい。前回の「ことわざ」もそうだが、その手の解説というか勧誘の書は、うさんくさい。

 私は既に年寄りだし、それらがあるのは充分認められるものだが、事実を並べてある記述の方が、やはり親しみやすい。

 いつ何時、役に立つかも知れないので、立ち読みでもしてみれば…

 というわけで、また次回に。


by ihatobo | 2019-03-15 10:41

『日本のことわざを心に刻む』(岩男忠幸 東邦出版 2018年)

 前回の長引いてしまった『ハーバードの人生が~』は、原文にあるように私たちに良き人生を教えてくれるが、それは本書が扱うことわざにも、同じことがいえる。人生のなかで出くわした出来事は、それに適したことわざによって、処理されることがあるからだ。

 ことわざといえば普通、物知りの年寄りがボソッと言うものだと思っていたが、著者はひとつのことわざを丹念に探し、類型を探し、あるいは出典や言い習わしまで参照している。いわば普通の辞書の形で記述を進めてゆく。

 たとえば「お金」の項目では、広く知られている「金は天下の回り物」があるが、この解説が分りやすい。例として林芙美子の「放浪記」の一文を引き、更に石川啄木の「はたらけど はたらけど猶(なお) わが生活楽にならさり じっと手を見る」が連想される、と記されている。

 私に言わせれば、この本をキッカケに本ブログで扱った『闇市』(マイク・モラスキー編)に連想が飛ぶのだが、それはお札が旅をするお話であった。本書には、旅も出てきたので、追って紹介しよう。


by ihatobo | 2019-03-08 09:46

『ハーバードの人生が変わる東洋哲学』その4

 紹介する果てしなき「道」は、半ばなのだが、今回で終えることにしよう。「あとがき」の代わりに、9.世界中の思想が息を吹き返す時代 があって、ほぼ「あとがき」に相当している。

 普通のエッセー本では、述べてきた結論の自己採点というか、具体的な感想が綴られているのだが、本書では長い東洋哲学の歴史的な進展や、相互関係が概括されていて、本書のダイジェストになっている。乱暴に言えば、この9章を読めば本書を知ったことになる。

 著者になり代わって、その「あとがき」を書いているのが解説の中島隆博で、その中でマイケル・ピュエットの文を引いている。

 ―― (…)しかし、「愛している」と口にする礼になって、(…)カップルが<かのように>愛を口にする瞬間、二人は本当に相手を愛しているのだ。――

 ここでいう<かのように>とは端的にいえばウソである。しかし、それを口に出すことが(相手に対する)愛なのだ、と中島は指摘する。そして、そのオリジナルの『論語』(孔子)の文も、紹介している。「克己復礼」が礼や愛へと連なる「道」なのだ。つまり己に克つのだ、と。

 いや、東洋哲学(思想)は深い。このように読めば分りやすい。宇宙、生命の始まりまでが掴めるし。ちなみに原題はThe Path:What Chinese PhilosophersCan Teach Us About the Good Lifeである。

 あと、当店が大好きな絵描きスズキコージが、Eテレ日曜美術館47日に登場します。是非、楽しんで下さい。


by ihatobo | 2019-03-01 11:07