『ためらい』は登場人物の少ない、いわば「籠った」小説だったが同時に読んでいた本作も「籠った」小説。短篇三作なので数は多いが、一作に登場する人物は少ない。
どちらも作品世界は、どっしりしていて余韻が残る。表題作は、女主人公が語る男の紹介といった趣で、彼の住むアパートが袋小路にあることを、説明する。
本書の表紙に高橋ヨーコ氏の写真があるが、この写真も沢山のことを語っていて、彼が暮らすのは一軒屋なのか、アパートの一室なのか、写真のトーンから言えば夕刻前の蒸し暑い晩夏なのか初秋の清々しい午前中なのか、と男の生活時間帯を想像させる。その情景が定まれば、ストーリーは進み始める。
第2話は主人公による記述で、キャラクターたちを俯瞰して比べれば、冷静さが生まれ、そのリアリティーが読むものに伝わる。
解説者・松浦寿輝が言うように、そうした仕組みが登場人物の各々を極立たせ、物語をシンプルにしてゆく。というか、物語が活字から離れ、あたかも映画をみるように、私の前を滑ってゆく。目に浮かぶような、おはなしであった。
▲ by ihatobo | 2017-08-25 08:00