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少年になり、本を買うのだ/桜庭一樹

 この作家はかなり音楽に親和性を持っている。
音楽を聴いている(…)
どうしようもない、感じがしてくる。未来がない。過去も輝いてはいない。現在はというと薄ぼんやりとにじんでいる。つまり“わたしたちは生きていない”世界が近づいてくる。やけにスモーキーな、いやな感じの空が見える。すぐそばまできている気もする。暗い部屋の真ん中にしゃがんで、例のロックバンドのビデオ・クリップを繰り返し見る。空の色。
その町の空気。
とにかく、傘からだ、と思う。
明け方になって、その町に足を踏み入れる(…)
少年になり、本を買うのだ/桜庭一樹(東京創元社ライブラリ07→09年)
 桜庭一樹の読書日記である本作。夢のような、というのは私自身の想い描く読書の日々がここに記されていて、すこぶる元気になった。丁度、未知のCDを大に買い込んで、一週間くらいかけてズンズン聴いてゆく感じである。メモを採りたいと彼女も考えクレジット/データは編集者も協力して、確固とした本になるように仕立てられている。




 そこに彼女の新作『私の男』(文藝春秋07年)についてのインタビュー×3で、『エレンディラ』(G・ガルシア=マルケスちくま文庫)が三回とも話題に上がり「気になってくる」という余談があり、私も映画、本を思い出す。それは要するに場所や装置(インスタレイション)が主体になり替わり喋るというか思いや考えを主張するという、コロンビア作家の幻想譚はある。
 ソフィア・ローレンだったか?が凄く恐ろしく、「エレンディラ」「はいと祖母さま」がくり返される。毒のケーキをとにかく柄本明のように喰う。怖い。
 他にもジョー・ヘンリーの『SCAR』(01年マモスレコードMR65507)が連想される。
『あなたに不利な証拠として』(ローリー・リン・トラモンド06→08ハヤカワ文庫)が紹介されている。その場所や装置の件をグーーーッとこじつければ、「そして始まる、毎夜の、屏風越しの秘密めいた会話」をする「すべての女は、屏風に向かう妖怪である」という、うっとりするような女の話もでてくる。(注 こじつけているのは私である)

 その他、音楽に関しては「限られた音楽、効果音、伝えられる情報の単純さから、見事にきれいな…」「(ロックの)言葉って叩きつけるもの…」「ピアフの楽屋におもむく少年の如く」や清岡卓行『ひさしぶりのバッハ』(06思潮社)もとり上げていて「他人の破滅をふかくいつくしむ端正。自分の破滅ときびしくたたかく端正」と記している。
 女に戻れば「暗く、悲しく、強欲な、あるうじ虫の死」「自己のアイデンティティを正当化するために犯した犯罪」「奪わず、生きられないものか」といいつつ正直な自己評では「わたしは刹那的な気分のまま凍った、ある種の無職男みたいな雰囲気を(女なのに)かもしだしている…気がする」
そして、編集/作家について
「原稿の中の時間と人間がすべてになって、自分が消える。作家は小説の影に過ぎない。わたし自身はもうどこにも存在しない」「こういう仕事の仕方、編集者への頼り方は、もしかしたら独特なのかも知れない」

それに続いて
担当編集者は、最初の読者でもあって、作家にとってはマラソンのペースメーカーとか命綱を持っている人とも似ている。この人を信じていないと、怖いところまで潜水できないように思う。


と書く。この作家に私は興味を持った。
あとオマケで誤植をひとつ見つけた。

by ihatobo | 2009-11-16 20:56 | 本の紹介