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「Pressure Chief」 / CAKE

年の瀬になってイーハトーボのご贔屓(ひいき)たちのアルバムが次々と発表されて私は嬉しいのだが、忙しい。そのなかでも密かな支持者を持っているCAKEが3年振りに新作を出した。これがよくかかる。年が明けても。

密かな支持といったのは、そのバンドの在り方やメッセージが笑えるからで、アルバムのセールスは前作で500万枚だという。もちろんワールド・マーケットの総計だが、その数字に惑わされてはならない。



当店の最近は、といっても既に十数年にもなるのだが、パリ発や経由の新しいシャンソンやハウス、クラブのダンス・ミュージックをかけている。理由は何よりもそれらは音が色っぽく、濃い。ビート感も私にはピタリとくる。そうした訳で仏語も英語でさえ理解し得ないにもかかわらず、CDを買うとなればそうした系統に傾いてしまっている。その傾斜にもかかわらず04年には当店がプッシュしたキャレキシコ(キャルフォルニアとメキシコを合わせた造語)の来日を始めジョー・ヘンリーのTiny voicesなど“アメ物”もよくかかった。

キャレキシコについてはその来日記念盤になったFeast of Wire(quarterstic/saidera SD4021)発売時のフライヤに推薦文を私は書いた。そしてジョー・ヘンリーに関しては、当店は元々が“ジャズ喫茶”だったこともあり、そのうち長い紹介文を書こうと考えている。では、さて、CAKEはなぜ最近の当店の系列の合間を縫ってヘビー・ローテーションに割り込んでくるのだろうか? 今作の『プレッシャー・チーフ』のライナーノーツにCAKEのボス、ジョン・マクレアのインタビューが転載されている。

自分たちが欲しい音を探すというより、不必要と思われる音を除外する過程で新しい可能性が生れる〔そうやって〕音の幅を広げてきた。

「音」は恐らくsoundのことだと思うが、それをバンドのサウンドとすればイーハトーボのこの十数年の営みとピタリ一致する。店で流しているCDやLPに関していえば、私は相変わらずセッセとそれらを買い続けている。だがそれは正確にいえば「不必要と思われる」CDやLPを「除外する過程で新しい可能性が生れ」店で使う「音の幅を広げてきた」といえる。それは本やメニューに関しても同じであり、それらはその幅を広げている。

しかし、それは一般に使われる“マイナス志向”や“引き算”の発想では決してない。ことばの遊びではなく、イーハトーボは<失敗のシリーズ>なのだ。つまり、次々に何かを演出(イベント)し次々にリリース(投げ出す)してゆく。それはつまり、厳密に何かを仕立て上げるのだが、それをすぐさまリリースしてしまう。しかし、それは「失敗」であることが多い。でもその「失敗さえも」すぐにそれを壊してしまうことで、いわば公平さが実現されるのだ。丁度賭け事のようにダイスがひと振りされればその回は終わりであり、やり直しはできない。それがその場面に偶然居合わせた方々に等しく与えられるチャンスであり、それを保障するのが私達の仕事である。

ここでの音が、バンドの方向(ディレクション)をも示すサウンドということなら、この自己分析はそのまま同時期(91年~)の当店の営みとピタリと一致する。喫茶店で「音」に相当するものは当店の場合はもちろんCDやLPだが、その他の雰囲気やカラーといわれるその店の“ニオイ”のことをいう。それらはある場所が機能するときにそれを構成する諸要素が関連を持って統合されて発揮されるもので、日常的なことばとして使われる「意図して」「演出する」に近いのだが、実際にはそうした作意され得るものではなく、別次元での作業の有機的な連関に基づくものだ。それはある作業なり、所作なりの“効果”でもない、構成要素の有機的な関連性によってのみ起こる現象なのだ。別のいい方をすればスタッフ各自の作業能力が連携したときに日常でいう“楽しさ”が生まれその場面が躍動する。

つまり、作業に不必要な“気使い”や“贔屓”のようなもの、世の中の傾向などを捨て去ることで各自のその時点で持っているもの、それが何のためらいもなく発揮され、それらが呼応して連携する。逆にいえば他人のやるべきことをやってはならないし、そうであるならば自分の作業をリアルタイムで実行するべきなのだ。これらが各自の能力を高め、それの「幅を広げ」る。

述べてきたこととはまた別の特徴を表しているのが今回のアルバムの冒頭Wheelsだ。

In a wooden boat in the shipping lanes
With the freighters towering over me
I can hear the jets flying overhead
Making lines across the darkening sky
And when the sun is going down I can take a taxi into town
And the waiter at the restaurant sets a table just for one
Wheels keep on spinning round spinning round spinning round
Wheels keep on spinning round spinning round and round
(okay)
So I had a plane to take me to a place so far away from you
Eventually we began to see that we could be completely free
And I could get away from you
And you could get away from me
And we could live each separately in our cities in the sun
Wheels keep on spinning round spinning round spinning round
Wheels keep on spinning round spinning round and round
(okay)
(alright)
In a cd karaoke bar
By the banks of the mighty Bosphorus
Is a Japanese man in a business suit singing smokets in your eyes
And the muscular cyborg German dudes dance with sexy French Canadians
While the overweight Americans wear their patriotic jumpsuits
Wheels keep on spinning round spinning round spinning round
Wheels keep on spinning round spinning round and round
(Alright)
(This one right)
(Spinning round)
Wheels keep on spinning round spinning round spinning round
Wheels keep on spinning round spinning round and round
(Spinning round)
[Chorus repeats in the background]
(I don't know)
Why you say you are not in love with me
(I don't know)
Why you say you are not in love with me
(I don't know)
Why you say you [music stops] are not in love with me

Pressure Chief / CAKE, Columbia, 2004

「Pressure Chief」 / CAKE_a0107688_2333377.jpg


by ihatobo | 2004-12-11 23:08 | CDの紹介