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『どくろ杯』(金子光晴 中公文庫 1972→76年)

 作者ならずとも天変地異に遭遇すれば、仰天し何事かを感ずるものだが、とりわけ金子が生きた時代の、それは甚大であった。

 地上では関東に大地震が起こり、文芸は、それまでの文語に変わり、口語による「自然主義」文学が起こった。その中にあって、彼の「詩人」は語るべき対象があり、語ることのできる沢山のコトバを持っていた。

 彼は一番険しく苦しい、と同時に一番確かな地面(中野考次)に立っていた。

 本書は、この時期を回想したエッセーだから、冷静で確かな事実が記されているが、その事実の向こうにハッキリとした夢や物語が隠されているのが分かる。天変地異の時代に青春を生きた彼は、そこで自ら文芸的営為を開始したのであるが、それよりも私には、彼の体験した日々の暮らしが伺える本作が嬉しかった。

 他に私が知っている文は、古典文芸のドナルド・キーン、文学を含む古典研究の堀田善衛がいる。いずれも私には貴重な、大切な存在である。喫茶店主でも読んで気持ちが明るくなる本だった。

 あと、私的に自分で使いたいコトバもあり、余裕が出来たらご紹介したい、と思う。


by ihatobo | 2019-11-08 10:06