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『ヴァチカンの正体』(岩淵潤子 ちくま新書 2014年)

 今年の秋は様子が変で、関東にやってくる台風も多かったが、秋の長雨も長かった。九月中にスカッと秋晴れがあっただろうか?残暑も、厳しかったし。

そして、夏は突然終わり昨日当たりから晩秋/初冬である。毎年この時季の金木犀のほのかな香りが楽しみだったのに、今年は味わえずじまい。

 さて、今回は又吉直樹の『人間』か、平野啓一郎の『マチネの終りに』を紹介しようと目算していたが、どちらも前評判が良く、わざわざ扱うまでしもないと思ったので、関心のあったヴァチカンを解剖した本書を選んだ。

 キッカケは、私たちの店のお客様の弟さんが、キリスト教関係者で、そのことは以前から知っていたのだが、前法王のヴェネディクト在位時、その彼が左右にふたりいる副法王のひとり、そのお方であったのだ!

 お客といっても長い付き合いで友人であるのだが、彼から、その事実を聞かされた時は、「へぇー」とは思っていたが、そんなに心動かされた訳ではなかった。しかし、ヴェネディクトの「生前退位」の際の報道を見るうちに「おぉ」という気持ちになった。

 並大抵の努力、鍛練では、その地位には就けないのだ。本書の主眼は、キリスト教が世界へ自らの主張を広めるようにシステムを動かしているが、ヴァチカンは世界に向かって、そのシステムの重要なことを教区と教会を通じて、広めていることに我々も学ぼうではないか、ということである。

 著者自身が、あとがきに記すように、「ヴァチカンはメディアである」という認識のもとに、キリスト教との類似、現代アートとの類似、果ては紙幣との比較・考証へと本文は進む。

全くモノの正体を探って行って、そのモノの正体が明かされた試しは、ないのである。


by ihatobo | 2019-11-01 10:11