『エスケイプ/アブセント』(絲山秋子 2006→09年 新潮文庫)
絲山秋子の名は、何かの賞を取ったから知っていたし、たまたま古本で『袋小路の男』(04→07年)を見つけたから、それを読んだ。そのくらいの付き合いだったか、本書には引き込まれた。
というのも神、神父、タバコ、「かつての革命運動」などなど、私たちの世代に共有されていたコトバたちばかり、京都、夜行列車とかが連なっている。
そして、主人公が、恐らく入りきれないコトバでパンパンになった頭を、解きほぐそうと旅に出かける。その行動も私たちには、馴染み深い。その行動指針が、偶然に依っているものも頷ける。そして、そうしたコトバが形を造る体系や行動に対して作者は、批判的であるのも頷ける。
「あの頃」は小説にして、消化してしまったらいい。他にも、いくつか、そうした類の小説を読んだが、本書の読後感は乾いていて、もうすぐやってくるだろう秋のように爽やかだった。
その中でも同等の感想を持った作品もあって、何冊かを想い出した。要は、詩的(ポエジック)なのだ。逆説的な言い回し、はぐらかし、意味深長な動作。政治と芸術が行き来し、重なってしまう美学的な蓄積に、この小説は、なっているのではないがろうか、
というようなことを考えていたので、この文庫には解説があるのだろうか、と気になりページをめくると、見事そのようなことが書かれていて、ほっと一安心。
上述の「政治と芸術」は『虚構の音楽』(フィリップ・ラクー=ラバルト1991→96年 未来社)からのコトバだが、作者は、この本も読んでいるのだろう。
また偶然がやってきたら、絲山の小説を読むことになるだろう。
喫茶店の話がいいな。
by ihatobo | 2018-08-24 06:18