『快読シェイクスピア』(河合隼雄/松岡和子 1999→2018年 新潮社)

 喫茶店には老若男女、様々なお客様が訪れるので、どのお客さんが来店しても、メニューを差し出し注文を受ける、ほんのわずかの時刻に、とりあえず、どのような方なのかを判断しなければならない。来店した目的が何なのか、店側としては知りたいわけだ。

 大方は、日常的なパターンに照らして、判断するのだが、時に嬉しいハズレを引く時がある。そんな場合の嬉しさは格別なのだが、それが今回の本題ではない。

 本書は、臨床心理学の河合隼雄とシェイクスピア作品の翻訳家である松岡和子が、シェイクスピアの諸作を巡って、各々の知見を披露する対談集。つまり、初めて接する相手を、その所作や人柄を見て自分のなかで、何らかのストーリーを作るのが、この仕事の要なのだ。

 そういう心積りで、私は河合さんの著作を数多く読んできた。実際、想定外のお客様もいて、トラブルに発展することもあるからだ。

 最終章「リチャード三世」の主役、リチャードは「悪の道を、ひたすら進んでゆく」。

もちろん作品の構成上の役割なのだが、河合さんはそんな彼にも優しい。この箇所で、日本の昔話や宮澤賢治も引き合いに出して、「悪」の弁護に回る。

 悪は悪なのだが、人間についての深い認識があってのことだから、“えぇー”とはならない。「秘密」→「影」→「悪」というキーワードを使って見事に話を反転させる。

 私は未読だが、河合さんには『影の現象学』があり、『とりかえばや、男と女』『昔話と日本人の心』『こころの処方箋』はリアルタイムで通読したので、またしばらく河合本を読み進めようと思った。


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by ihatobo | 2018-06-01 10:06