『安部公房とわたし』(山口果林 講談社+α文庫 2013→18年)

 安部公房という作家の作品は、何冊か読んでいて、理知的なギリシャ神話を連想させる物語という記憶があったが、山口果林による本書を読んで、大変不器用な人格だった、ということが分かった。『天空の城ラピュタ』の世話役、メンテンナス担当のロボットのようだ。

 自分の信ずるものを、不器用に守ろうとして、あちこちに衝突しながらも役割を果たす。という彼を思い出した。切ないが優しい。しかも、感情は入っていない。「そういう人に私はなりたい」と、私は思う。

 安部は医学部を出て、作家劇作家になった。当時としては数少ない才能だ、ということを本書で知った。「才」のある人は何をやってもキチンとやり、先端に立つのが、トータルに全てをつなげるのは、余計難しいわけだから、日常生活は取り散らかし、辻褄が合わないことがあったのだろう。

山口さんは、その彼を詳細に観察し、記述した。愛のある二人だから、切ない。

 前回紹介した『不倫』(パウロ・コエーリョ)と違い、筆者は当事者なので、紙の上の物語ではない。実際の観察が、物語になっている。そういう意味では、稀有の本だろう。

 それにしても、筆者自らの母を同時期に亡くし、阿部を亡くし、さらに阿部の妻を、と立て続けに襲われた山口は気丈である。先へ先へと目標をかかげてゆく。時に疲労し寝込むが、安部との思い出の品々…果ては分骨された骨までも「海に播く」。

 実に内容もさることながら、怖い本である。


[PR]

by ihatobo | 2018-05-04 10:02