人気ブログランキング | 話題のタグを見る

『ためらい』(ジャン=フィリップ・トゥーサン 訳・野崎歓)

 夏至が過ぎて梅雨が明け、さぁ夏本番!と思いきや、また梅雨に戻ったごとく長雨が続き、更に台風がやって来て、東京は秋になったようであった。その台風も進路が異常で、迷走、西日本に大雨をもたらしただけで、あのピカーンの秋の青空がやって来た訳ではない。

 さて、本作は即物的な記述が続く、いわば叙事詩なのだが退屈するかといえば、決してそうではなく、むしろ滑るようにストーリーを追ううちに、あっという間に読み終わった。といっても、内容のない軽い読み物でもなく、印象に残る場面が数多く出てくる。


 どう言ったらいいのか、ストーリーがモワレを起こしていて、同じ場面でも設定が同じでも主人公の視角が微妙にずれていたりする。そこへ行く時刻と、そこから帰っていく時刻が重なったり、すれ違ったり、と重層化されていて、内容豊富なのだ。

 というよりも、それを狙った“確信犯”的な記述なのだ。この夏のような行きつ戻りつしながら、結局は夏であるという、どっしりとした小説なのだ。


by ihatobo | 2017-08-18 09:32