『覗くひと』(アラン・ロブグリエ 冬樹社 1955→66年)
しかし、小説など空想された物語についても、〈 店 〉を運営する動力になるものも扱っている。
つまり、店という普段の生活の中に滑り込みながらも、店(喫茶店)を訪れないことは一日たりともない、という人は、そう多くはないだろう。
ま、年齢や生活圏にもよるだろうが、その多くはない人々をもてなすのには、エネルギーが必要である。
そうした時に、小説の舞台が店であるような時に、ついこの場面は、スタッフはどう動くのだろうと読み込んでしまう。
本書は当時 “アンチ・ロマン” と略称された小説家たちのひとり、ロブグリエの55年の作品。いわゆる写実に徹している。出来事や情景を叙事的に記述してゆく方法なので、”シネ・ロマン“ とも呼ばれた。
私の趣味は、こうした小説に傾斜している。
ー 主人の顔が看板の上、入り口の枠の中に現れた。
ー 部屋のマチアに見える部分を女は離れ、数秒後、楕円形の鏡の中に姿を現す。
「 希望 」や目がくらむ陽光、少女の肢体のカタチ、海辺…と過去の文芸作品、映画、絵画、写真などを連想させる単語が、単々と“物語”を紡いでゆく。
しかし、記述できない出来事もあり、だが、著者は空想には踏み込まない。
本書で、近頃短く流行した半コートがカナディエンヌ、というのを知った。
by ihatobo | 2014-05-03 00:19 | 本の紹介