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『ふたりの証拠(アゴタ・クリストフ)』(早川epi文庫88→01年)

  彼女がデビューしたのは、86年、その日本語訳が91年で、その年、彼女は来日している。その騒動で私は興味を持ち、名を覚え、処女作『悪童日記』を読んだのだったが、印象はあいまいで、その書名だけが記憶に留められていた。
  ともあれ01年になって文庫となった同書と、本作『ふたりの証拠』には、驚かされた 。本作解説に引かれている「読後感は震駭(しんがい)の一語に尽きる」(塩野七生)を、全くその通り感ずることができた。これを機に前作をもう一度読んでみようと思った。
 「震駭」とはふるえおどろくの意味というが、その通りである。
戦争、政治、国家が、背景に設定されているものの、それは退いたり、前景にせり出したりしながら、端々しい文が進んでゆく。
 主人公リュカは、どの場面でも内面(エピソードの解釈、本音の吐露)を持ち出さず、作者もそれを補わない。リュカは記憶さえも留めない。何の色もない闇そのものを抱え、態度だけで演技してゆく。忘れたいのだ。
 「自分にあまりにも辛いこと、あまりに悲しいことがあって、しかもそれを誰にも話したくない時には、書くといい。助けになると思うよ」
 彼は何人もの人々にそれとなく助けられ、励まされ、いじ悪をされるのだが、このアドバイスがいい。
これは私に覚えがある。
 読後感は、しかし、この本自体に愛しさを感じた。
 さて、今回の新刊は文芸春秋が始めた「ジブリ文庫」の今月刊行分、『天空の城ラピュタ』 を読んだ。読んだ、というのもこのシリーズは、<シネマ・コミック>と<ジブリの教科書> の2本立てで、本書は<ジブリの~>の一冊。
 幸いにも?私は子供たちと観ることができたのだが、始まると、すぐに「映画だ」と思い、 居住いを正した。いわゆる“アニメ”ではなく映画である。
  本書はそのシーンの遂一の解説、背景資料、裏話などの“読本”である。子どもたちに「あれはこういう意味かも~」とこそこそささやいた事柄、予想の通りの展開やセリフに拳を上げた些細な想い出が本書に詰っている。
 それにしても今年の若竹の伸びは一ヶ月以上も遅れたのではなかったか。二日も三日も一日中風の吹くのが普通であっただろうか。

by Ihatobo | 2013-05-19 22:21