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『家霊』岡本かの子(ハルキ文庫)

短編4作のうち2作が食/店に纏わるもので、初出1938-9年にもかかわらず、共感しながら読んだ。
 しかし、冒頭の「老妓抄」には更に唸った。
 いわゆる(近代)小説に繰り返し扱われる“憂鬱”“孤立”や“憧憬”“羨望”といったテーマがギッシリ詰まっている。
 また、加えて“吝嗇”(ケチ)に連なる複雑な心情に分け入って、物語は破綻の淵を点々 と伝いながらも、その故に速さを増して終わる。
 イロケ(色気)がpassionの訳語として使われていたし、欲も現在とはわずかに異なる文脈を持っていて魅かれた。
 食/店については(店員の主人公に)「みんな軽く触れては慰められていく」といった記述にドキッとさせられるが、これに相当する店の実際を述べる場合、この文は適切だと思った。
 また親、兄弟の間での相談事には、「双方がてれてしまう」微妙な“空気”感も述べられていて、こうした事柄については変わらないもんだなぁ、と安心した。
 その「鮨」「家霊」に続き「娘」では女性の社会に対する展望も各人各様で、認識の具合も変わらずあり、こちらは男女とも互いに考えを合わせなければ、と私なりに考えた。
 今回は他にその問題にも関わる『日本断層論』森崎和江・中島岳志(NHK出版新社)『呪の思想』白川静・梅原猛(平凡社ライブラリー)も買うには買った。

by ihatobo | 2011-05-29 18:17