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『アメリカ紀行』千葉雅也 2022年文春文庫

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赤坂にある「双子のライオン堂」にやっと行けた。実に5年越しの願い。年中無休で店をやると、どこかに行くのは難しい。で、念願のライオン堂で手に入れたこちらの一冊を紹介します。

タイトル通りの4ヶ月間のアメリカ滞在記。201710月から20181月までなので、コロナ前の世界だ。私が最後に旅行に行ったのが、2018年の11月。パンデミックのあと、旅行は普通になったけれど、私の旅の記憶は2018年でストップしたまま。

それが良かったのか、ハーバード大学のライシャワー日本研究所に客員教授として滞在するという、知る由もない環境にも関わらず、スゥーと読み終えた。

著者が撮影した白黒の写真、食べ物が多いけれど、滞在場所の風景や部屋、参加したパーティー等が数ページ毎に挟まれている。写真も良かったけれど、食べたものについても、出会った人についても、著者の描写は印象的だった。

例えば――物静かで、何か途方もない諦めを通過した人のような印象を受けた。というか、まだ諦めのただなかにいるのか、もう通過してしまったのかがわからないような。――

無理にオチをつけたりしないで、余白をたくさん残す感じがスゥーと読み終えた理由かもしれない。

読みやすくはあるけれど、哲学的な部分はやはり難しくて分からなかった。

スゥーと読んでいるつもりが、いきなりガシッと捕まれて、深みに潜って行くような箇所もいくつもあった。豊かな読書体験でした。


# by ihatobo | 2024-07-21 11:23

『生きのびるための事務』坂口恭平/道草晴子・漫画 2024/05/016 マガジンハウス

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「きっと最後は上手くいく」が合い言葉。

 好きな事だけをして、ワクワク生きて行くのに必要な物はノート1冊だけ。ジム、という強力な相棒に導かれて、ノートに書かれた内容が実現してゆく人生が始まります。

坂口恭平さんの話はシンプルで、具体的。道草晴子さんの漫画も無駄が無く、グイグイと物語に引き込まれました。

いーはとーぼに置いてありますので、ぜひ手に取ってごらん下さい。

本を読んで自分の人生を振り返る。60年生きてきた私は、それが出来るようになりました。

悪くはないが、それほど上手くいかなかった私の人生。20歳の時は、挑戦をして、望んだものを手に入れたいと考えていたのですが、そうはなりませんでした。その原因は何だろう?何度も自分を責めてはがっかりしてきたのですが、あとがきを読んで、納得。

「好きのハードルが高い」

「すぐ金に結びつけようとする」

これだったのです!!

自分のやり方が少し分かってきても、お金に結びつかないのでやめてしまう。やめたのだから、それほど好きでもないのだわ、と自分を責める。思い出すと、無駄に苦しんでばかりで笑ってしまうのですが。

『生きのびるための事務』面白くて、役にたつ、オススメ本です!!

 


# by ihatobo | 2024-06-09 10:46

『十年後の恋』辻仁成著 2024年1月 集英社文庫

二年ぶりにいーはのブログを再開することにしました。

店主に代わりわたくし木花なおこが、本の紹介やいーはにまつわるあれこれなどをUPしてゆきます。

どうぞよろしくお願い致します。


パリで生まれ、完璧なフランス語を話す日本人のバツイチシングル・マザー、マリエ。何不自由なく温かい両親のもとで育ったマリエだが、フランス人社会の中にあっては、遺伝子的な違和感をいつも持ち続けていた。

マリエが異邦人という立場なので、その違和感分かりやすかった。けれど、この社会の中での違和感は、おそらく、口には出さないけれど、多くの人が持っているものではないだろうか?

だからマリエが恋に求めるものとは、おそらく多くの人が恋に求めるものであると思った。

恋愛は人との距離感をぐっと縮めるものゆえ、誰もが恋のとりこになり得る。けれど、マリエの恋はそう簡単には進まない。

この物語は、最後の最後まで恋の行方が分からない。行方が気になって、一気に読み進めてしまった。

パリの街の描写は楽しかったが、コロナ渦のフランス社会でのアジア人への人々の視線には、アジア人として胸が痛んだ。


# by ihatobo | 2024-03-17 12:30