人気ブログランキング |

『ヴァティカンの正体 ― 究極のグローバル・メディア』(岩淵潤子 ちくま新書 2013年)

 本書は、序章で大変明確に本書が扱う「ヴァティカン」が、その教理と共にキリスト教のメディアとしての、属性を持っていることを指摘する。キリスト教の全体を、参照しながらヴァティカンの正体を解明してゆこうとする。

 つまりは、自分を参照しながら自分を解き明かす、というアクロヴァットな倫理で論を進めてゆく。明晰な頭脳の方は、これだけで信用ならないと本書を投げ出すだろうが、そのような事態は、どこにもあるのである。

とりあえず、先まで行ってそれでも秩序がなかったら、その時、止まればいい。内容は面白そうだから。著者のこの本による提案はヴァティカンのように長い期間に渡って自ら想うヴィジョンを、自らの理屈によって、いかに全世界に主張できるか、ということだと思う。

身勝手な理屈では、彼自身が自らの首を締めることだろうし、単なる「宗教家」に堕することになる。一歩自分を引き、機多の事情を索いて、ジクジクと論を進める。その態度が、副題の意味なのだろう。

 どちらにしろ、私には大した主張はないから、仰々しいことは言わず、静かにコーヒーを淹れるだけなのだ。それが、お客様にとっての魅力であると信じて。


# by ihatobo | 2019-08-16 09:41

『ゾウの時間、ネズミの時間』(本川達雄 中公新書 1992年)

 この本は以前、私達が音楽本を造る際に、編著者の山下邦彦が参考図書に挙げていたので、編集顧問の立場であった私も読んでみた。

ゾウもネズミも生物であるが、その時間を扱った本書は、大変興味深かった。音楽は「時間の芸術」である。その意味で、一見、無関係な本を読んだのだろう。が、しかし、時間と芸術をつなげてワン・フレーズで断言できるものでもない。

 時間はアインシュタインがいうように、重力と関係が深い。あるいは、楽しい時間はすぐ去るが、退屈な時間は長い。何とも御しがたい対象である。

 彼は顧問の私に、思う所を物凄い勢いで語り、説明するのである。本書に出てくる「コープの法則」は、その曖昧な対象を「真実」として扱えるように考え出されたもので、進化とサイズの大小を比較・検証しようとする。生物学といえども、物理から天文を含む。

 そして、古生物学では「島の法則」というものがあり、島型生物と大陸生物では「サイズ」が違うという。ったく学問、研究はとんでもない「事実」を生み出すものらしい。

 横で見ていた私には、編著者の気が狂ったのではないか、と幾度となく感じたのであった。

 もちろん、本書著者も相当、変なんだと思うが。


# by ihatobo | 2019-08-09 09:50

『下北沢について』(吉本はなな 幻冬社文庫 2016→19年)

 また、新聞コラムから始めてしまって申し訳ないが、このコラム大変おもしろく、私たちの店でも度々見かける女性を扱っている。

決して女性を嘲ろうというわけではなく、女性がひとりで居酒屋に限らず、店に入るのは、ある種の勇気が必要になることを、このコラムは教える。吉本さんの『キッチン』(角川文庫)は、同時代の新しい書き手の中では、最初にのめり込んだ作家で、78作目くらいまでは読んでいた。懐かしい。

 文中には知っている店やミュージシャンも出てくるし、今年、フランスの出版社から写真集が出た高橋恭司を「先輩」と呼んでいたことも知っている。吉本さんは、小説でもそうだが、「事実」を認め、承認、肯定する人で、その粋組みの中で、人や出来事を回顧してゆく。実際に、読み手がその人や出来事に、遭遇したかのように描くのが巧い。

そして、私にしてみれば私自身のことや、この店で起った事柄が様々に想い出されて、ホント有難い本であった。巻末の「裏話」5話も含めて、「縁」が造り上げる共同体だとは言えない集団が、離散集合して大きな物語が、出来上がっていくようにも感じた。

 得がたい本である。


# by ihatobo | 2019-08-02 09:29