『ジプシー』(ジュール・ブロック・訳 木内信敬 クセジュ文庫528 白水社 1974年)

 私が知っているジプシーは、共同生活をする小さな集団で移動する、というものだったが、映画『ジプシーのとき』(エミール・クストリッツア監督、ゴラン・ブレコヴォッチ音楽 1990年)を観る機会があって、それを観に出かけて行ったあとは、自分の知識が追認された他にドキュメンタリーのごとき、リアルな映像に圧倒されたのを思い出す。

多分、その際に映画のサウンド・トラックを聴き、本書を買って来たのだろう。

 さて、本書を読むと大変、几帳面な資料集というのが、第一の特徴。著者は、未知の集団、つまりシプシーに対して、言語学の知見による分析を試みることから始め、その先で戦後発展した社会学の方法で本書を進める。

 社会学の方法と言っても著者は、その学者ではないから、飽くまでもジプシーに関する著作、記録の収集分析にとどめ論を閉じている。ともあれ、ジプシーという集団の事実を知るには、格好の本である。現在に読めば、社会の近代化の過程のレポートとして読むことが出来る誠実さが美しい。

 それにしても、『ジプシーのとき』以後の“バルカン・ミュージック”の世界的な隆盛の波を、この店は喜びを持って被ったのはラッキーであった。かける音楽の地域がヨーロッパに移った時期でもあった。


 ちなみに、そのヨーロッパの名を冠したアルバム『モノリス・エウロパ』(ミティ2001年)を当店40周年記念盤として、去年から売っています。「よい」です。


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# by ihatobo | 2018-06-15 09:24

『未来を拓く君たちへ』(池上彰 日本経済新聞社 4月 18年)

 梅にウグイス、山ホトトキス、初カツオが順番だが、どことなくチグハグな今年の初夏であったが、このところ連日夏日が続いている。どうも、変な天候である。

 著者は、長く報道記者としてTV、ラジオで活躍したが、その後『週刊こどもニュース』で解説役を務め、生活情報を含め社会全般で起きる様々な事象を扱って、ニュース番組を興味の湧くものにした。しかも、その扱い方が公平で客観的であったために、その姿勢に評価が集まった。

 本書は新聞に連載された「大岡山通信」の書籍化。紙面が大学面であるために、講義録のような体裁だが、権威を振りかざす事もなく、伝えるべき事柄を簡潔に述べていて清々しい。刻々と変化する国際情勢についても、自らデータを集め、自分のコトバで把握するように書かれている。

 各々、要点を得た解説、指摘で、私でも理解できる。知っていたコトバでも、文脈を背景にしての記述だから分りやすい。彼は理解の為に、基本的な文献を読んでおくように、本書で繰り返している。

学校を出るほどの年代ならば、社会で実際に使われているコトバの意味を、知らなければならない。

たとえば、「経済」とか「文化」とか、その「社会」とか。「経済」は、もともと「経世済民」で、辞書によると“国をおさめ、民を救うこと”とある。私たちの知るのは、どちらかといえば、「政治」に近い、と思うが、近代になってそこから専門化したのだろう。

 ともあれ、時季が少し遅いが、新入生、新社会人には、オススメの本である。


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# by ihatobo | 2018-06-08 08:33

『快読シェイクスピア』(河合隼雄/松岡和子 1999→2018年 新潮社)

 喫茶店には老若男女、様々なお客様が訪れるので、どのお客さんが来店しても、メニューを差し出し注文を受ける、ほんのわずかの時刻に、とりあえず、どのような方なのかを判断しなければならない。来店した目的が何なのか、店側としては知りたいわけだ。

 大方は、日常的なパターンに照らして、判断するのだが、時に嬉しいハズレを引く時がある。そんな場合の嬉しさは格別なのだが、それが今回の本題ではない。

 本書は、臨床心理学の河合隼雄とシェイクスピア作品の翻訳家である松岡和子が、シェイクスピアの諸作を巡って、各々の知見を披露する対談集。つまり、初めて接する相手を、その所作や人柄を見て自分のなかで、何らかのストーリーを作るのが、この仕事の要なのだ。

 そういう心積りで、私は河合さんの著作を数多く読んできた。実際、想定外のお客様もいて、トラブルに発展することもあるからだ。

 最終章「リチャード三世」の主役、リチャードは「悪の道を、ひたすら進んでゆく」。

もちろん作品の構成上の役割なのだが、河合さんはそんな彼にも優しい。この箇所で、日本の昔話や宮澤賢治も引き合いに出して、「悪」の弁護に回る。

 悪は悪なのだが、人間についての深い認識があってのことだから、“えぇー”とはならない。「秘密」→「影」→「悪」というキーワードを使って見事に話を反転させる。

 私は未読だが、河合さんには『影の現象学』があり、『とりかえばや、男と女』『昔話と日本人の心』『こころの処方箋』はリアルタイムで通読したので、またしばらく河合本を読み進めようと思った。


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# by ihatobo | 2018-06-01 10:06