本書に頻出するジャック・カランは、本来なら精神科学の医師だが、その哲学的言説は説得力があり、私は比較的多くの記述を読んでいるので、それを大切にしながら本作を読んだ。
それはそうとして、カランの記述は複雑で、簡単に解説できるものではない。しかし、その不可能性自体が記述を推し進めていく、というタコ足配線のようになっていて、何度も読み返していると調子(ビート)が出て来る。そうすると、読む者は調子付いて楽しくなる。という仕組みになっている。
その他に、本作の記述で大変魅力的なのが、
――それがすべての自立の始まりなのです。(…)偶然性です。母なる偶然性です。(…)――
という記述。
この箇所を読むと、店の運営と全く同じだと思える。哲学っていうのは面白いのだ、ということです。
オススメできる本が、また1冊見つかったと思いました。
# by ihatobo | 2022-05-11 09:28