『詩という仕事について』(J.Lボルへス 鼓直・訳 岩波書店 2000→2011年)

 ごく最近になって、ソニー・ロリンズ「ワーク・タイム」(Prestige)を手に入れて聴いている。LPで聴いていた頃の記憶は鮮烈で、1曲目に、いきなりテイナーの音が鳴り響き~といったものであったが、それはB面であったのが、今回、知れた。

 私は、このアルバムはB面をより多く掛けていたのだろう。まだ何も知識のない頃に、喫茶店でアルバイトをしていた頃、このアルバムのカバーに魅かれて聴いたのだった。が、それは60年代の終りに再発売されていた盤だったのも、今回、知れた。
 テナー・サックスを携えて、まぶしそうに立ち尽くすソニーがカッコ良かった。大方の“ジャズばなし”では「やっぱソニーは、サキソフォン・コロッサス」が優勢だったが、私は秘かに「ワーク・タイムだよな」と思っていた。

 さて、うっかり“ジャズばなし”になってしまったが、つまり音楽から離れて、おしゃべりは延々と続く訳だ。その、直訳すれば仕事の時間は、即ち、その仕事の内容をしゃべることなのだ、というのが本書である。
 ボルへスは1967/68年に米ハーヴァード・ノートン語学講義を受け持ち、その記録をまとめたものが、2000年に出版され、2002年に翻訳刊行されたものの、これは文庫化である。
 本書の核心部分は、ボルへス自身も「透明人間」という言葉で「自分」を説明しているように、何かを書くのだが、それを書いている自分がそこに隠れてしまう、という矛盾を突き詰めている。

 作品自体が「自分」であり、それを造るのも「自分」、つまり「創造者」である、というまわりくどい言い回しをして、結果何かが伝わる、それが詩だ、と言っているようなものである。込み入っているが、大変シンプルな判断である。
 本文庫が刊行された折に、本ブログでも紹介したが、内容は覚えていない。10年の2月の日付が記されているので、その頃だと思う。詩に形式についてボルへスは、前回のポアンカルと、語り口が似ている。偶然では、ないのだ。
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# by ihatobo | 2017-04-14 09:06

『夢十夜』(夏目漱石 原作 近藤ようこ 作画 1927→2017年)

 以前、本ブログで紹介した『漱石の思い出』(2016年)の際に、ここは、この際、本気を出して『夢十夜』(1927年)を読もう、と書いたのだったが、近藤ようこの作画が出たので、これも眺めてみた。本書を読んで気づいたのは、何かに似ている、ということだった。

 漫画になったことでイメージが膨らんだのかも知れないが、イメージの中で、ジャンルが壊れて折口信夫の『死者の書』へと飛んで出て、そういえば同書も同じ頃に執筆されているから、ひょっとしたら互いに影響しあったのかも知れない。
 『死者の書』冒頭「ひた ひた ひた~」という足音なのか、雨音なのか同書が歴代の死者との語らいが述べられているが、漱石も死者の語らいを本作の内容としている。ただ、『夢十夜』では100年、という期限が記されている。それが長い時間なのか、短い時間なのか、それを測ることは出来ない。

 漱石没後100年を意図した、とはいえ、それ以上のインパクトを本書は備えている。ひた、ひた、ひた、と100年かけて死者は2017年まで歩き通したのであろうか・・・
 漱石にちなむ岩波書店より、今年になってから刊行された。
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# by ihatobo | 2017-04-07 10:03

『首相官邸の前で』(小熊英二 集英社インターナショナル 2017年)

 今回は新宿つながりで、オーディオ・ユニオンに向かう途中、紀伊國屋も観ておこうと寄ると、店先に出店していて、又吉直樹ら話題本に混じって、集英社から出たばかりの本書に目が止まり、最速買った。

新聞書評は、取り上げてはいない隠れ新刊である。ホント、情報をキャッチする手立てが、私は不足している。で、読み始めたのだが、冒頭に高橋源一郎による著者インタビューが載っている。高橋と小熊は7年前の文学界(5月号)で対談しており、今回は高橋が聞き手に回った。
 そんな、やりとりから始まって、前回を引き継ぐように現実、事実の大切さ、そして、それを持って展望を開くことが、方向を決定することが語られている。
 現在は、そのインタビュー(対談?)までを読んだ。次回に、また。

 さて、数学者のアンリ・ポアンカレの数学における論理的展開の重要性、学生に伝える際の要点など、物理、天文学などの背景を持った数学の概念の内容を詳述した『科学と方法』(訳・吉田洋一 1926~ 岩波書店)を、いま読んでいる。なんとなく両書は、一脈通じるものが、あるような気がしている。
 こうしているうちに、猫の額ほどの地面に植えた桃の木が、ほぼ満開になっている。私の近所の桜は、まだ二分咲きだというのに。
 順番が逆である。やはり、天候不順だろうか。
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# by ihatobo | 2017-03-31 22:25