『愛と苦悩の人生』(壇一雄、野原一夫 編)

 本書も再読である。もうすぐ桜桃忌でもあるし、加えて玉川上水にちなむ井の頭(恩賜)公園の開園100年ということで気になった。
 本書は壇一雄と野原一夫による評伝本で、太宰の作品と彼の日々をよく知る二人が、作品の中の記述と重ね合せながら、太宰の人生を語った共著。一言で、その人生をいえば「ヒトに笑われる」人生だった、と私は思った。決して誉めていうのではなく、笑われる、こんなんじゃ、という。

 しかし、ヒトに後ろ指さされる人生ではなかった、と。中学の頃に彼の作品を教科書で読んでいた。確か『走れメロス』。内容は覚えてはいないが、何やら説教じみていたと思う。そんなことより、私が中学の時分、メルボルンでオリンピックが開催されていた。騒がれていたのは、そのせいかマラソンだった。体育の教師が、いつになく張り切っていたのを覚えている。
 しかし、都心の学校だったから、彼が奨めたのは山登りであった。ともあれ、日本の60年代はそうした体育ブームであり、それが現在にまで尾を引いているのではないだろうか…

 目標は鍛練ではなく、脂肪を減らすことに変わったが。しかし、本書タイトルである「愛と苦悩の人生」を太宰は生き、随所に、その彼らしい繊細を散りばめている。更に、それは私たちの細かさ、弱さを彼は知っていたのだ、と思った。同時に、力強さも彼は持っていたのだ。
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# by ihatobo | 2017-05-06 10:40

『科学と方法』その2

 本書の著者アンリ・ポアンカレは、1854年生まれ、1912年に没したが、数学の他に物理、天文学者であり、他に『科学と仮説』(1902年)『科学の価値』(1905年)『晩年の思想』(1913年)の三書がある。
 冒頭の緒言によって明らかなように、本書は科学(学問)するための、方法の内味を述べながら、詳しくは入り組んだ記述となっている。今日、私たちは、日常的にある目的を達成する際のやり方を探すが、そのやり方を根拠付けようとするのが本書である。まわりくどい言い方だが、そういうものらしい。

 さて、店は偶然が集まる場所だが、充分に長い期間が経過すると偶然が溜まってきて、ある閾値を越えると、それが反転して必然のものとなることがある。先日も、長い付き合いを願っている田川律のことが、しきりに気になっていたところ、その昔に彼と共に仕事をしていた演劇人が店にいらした。

 昼下がりに酒が飲めるのが気に入って再訪してくれたらしく、この日は確か2回目で、今回は注文のやり取りの中で、自分の仕事のアレコレを語り始めた。私たちの店は基本的に、注文や精算の時以外はお客様と会話はしない。例外が起こっても、守られるように手はずが整っている。
 しかし、今回の問わず語りの中で田川律の固有名が出来たのに、私が反応してしまった。以前は半年に1回ほど定期的にいらしていた彼が、ここ2~3年見えていなかったからだ。70を越えてしばらくたっているはずである。その演劇人に尋ねると、同年齢だという。

 私は、身を乗り出して会話した。田川の近況が知りたかったのである。しかし、彼も「そういえば、だいぶ会ってないなぁー」
 結局、私が古い住所録を探して、思い切って電話してみた。が、電話が繋がらず、私は以前勤めていたレコード店の事務所に電話してケータイ番号を聞いてみた。電話の声は元気そうだったが、「足が利かなくなってなぁ」「今度いらしたら、この番号教えていいですか?」「あぁ、ええよ」
 そうしたやり取りがあって、今は、いらっしゃるのを心待ちにしているところ。

 もうひとつの偶然は、開店以来のお客様である柄本明の名も出したのだが、この次の日に電気を付けに窓に寄ると、柄本が犬を散歩させているではないか。私は階段を駆け下り、「柄本さん、あのー金子賢三が昨日、店にいらして柄本さんの話になって~」と報告。
 偶然は一度起こると、重なるものらしい。(つづく)
 本書には、その偶然に関する章があり、全体的に納得できる記述もあり、オススメである。
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# by ihatobo | 2017-04-28 10:38

『ヴェーユの哲学講義』(シモーニュ・ヴェーユ・著 渡辺一民/川村孝則・訳 1996年)

 本書を知ったのは、40代後半になってからで、もちろん学生の頃に、書名と著者の名は、どこかで見聞きしていたから、文庫になったのを絜機に買ってきた。
 最速、読むには読むのだが、そもそも恩寵(おんちょう)の概念が分からないから、さっぱり内容を掴めなかった。今回は、いくらか理解が進んだが、いわば文系女子が物理学の基礎概念である「重力」を扱ったわけだから込み入っている。

 たとえば、第一部には「感情における身体の役割」の章があり、その身体が反射と本能に依っているとして、その各々を定義して論を進める、という、いわばメンドーくさい。
 しかし、最初に述べるように「ことば」に対する強い執着があり、「記号」について、その体系について深く考察を重ねたことが、伺われる。
 もうひとつには、「身体」の相対化、それを軸にした生から死、地球から宇宙の発生、心理学、社会学、経済、国家へと各々を常に「身体」から発想し、分析してゆく。最終章に審美的な感情についての徹底した探求を配して、「勇気」や「自殺」、思いやりといったテーマにまで及んでいる。

 今回の岩波書店版では、こういった込み入りが、解きほぐされているのだろうか、また買ってみようと思う。
 何か様々なことを、思い起こさせる本である。
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# by ihatobo | 2017-04-21 09:43