人気ブログランキング | 話題のタグを見る

『/05』(坂本龍一 2005年)

 坂本龍一をかける。店内の掃除をし、開店に向けて野菜類の細かなメンテナンスの作業をしていると、レタスの葉をちぎる音が曲の合間に聴こえる。
 耳はピアノに向いたり、ピーマンをこする指の音を行ったり来たり。それらを水に浸し、ひとつの作業が終わる。
 その途中でスタッフが出勤してくる。開店30分前、レジの決済、買い物チェック・仕込み、豆の在庫確認などコーヒー関連のFAX・・・
 その頃になって、CDが終わる。
 さぁ、今日も始まる。

# by ihatobo | 2014-07-30 17:37

『アキサキラ』(セシル・テイラー・トリオ 1973年)

 ここ2~3年の間に、お顔を覚えるようになり、その後も年に2~3回の周期で、お店を訪れるお客様がいます。
 彼がいうには「30年以上前から」知っていたとのことですが、私には覚えがなかった。
 前回、短くお話が出来たのですが、それも年明けだったと思います。しかし、その時に互いの自宅の最寄り駅が同じという事が判明し、「そのうち駅で会うかもしれませんネ」だったのだが、今回も「なかなか会いませんネ」で彼は帰って行った。
 今回の話では、思い通りほぼ同年代で、高校からの時期に同じ外タレ・コンサートに、どうやら同席していたことが判った。その偶然の一致が、ピット・インの山下洋輔トリオ沖合のフランスからの帰国ツアー、日野皓正・渡米コンサート、そして本アルバムに収録されているセシル・テイラー・トリオの初来日コンサート。
 ま、ここまで知ると偶然とはいえず、たまたま価値観が共有されていた者同士が、「30年以前から」私たちの店を“共有”しているということだろう。
 この店が開店したのが77年だが、その年の“ライブ・アンダー・ザ・スカイ”というジャズ祭りが、今は無い貴重な田園調布コロシアムという、その街にとてもよく調和した建造物で催された。
 私は、その翌年のエルメット・パスコール、エリス・レジーナの夜に出掛けて行ったが、彼はその翌日、最終日のV.S.O.Pの夜に行ったらしい。夕立がすごい夜で、当夜、帰って来たお客様が「もー大変だった。ズブ濡れだよ」と口々に言い合っていたのを思えている。
 さて、本アルバムは2枚組で4か所のライブが収録されている。新宿厚生年金ホールで、そのことを私は『カフェ・モンマルトルのセシル・テーラー』(MUZAK MGCB-1216 62→08年)のライナー・ノーツに書いている。

  それはノンビリとした懐旧ではなく、ハッキリと甦る画像である。その画像はセシルの演奏と実は同等なのである・・・(全文を本ブログで読めます。)

 今回の会話は、まだまだ続くのだが、また次の機会に。

# by ihatobo | 2014-07-29 09:59

『カミュ』(モルヴァン・ルベック 高畑正明訳 人文書院 1967)

 新作より他の過去に書かれた小説の記述を辿るうちに、その時代の風俗、文化が生々と見えてくることや、近代になれば国境をめぐる経済、政治、法が周辺を含めた人々に何をもたらせたのかが分る。
 それを「歴史」というコトバで知の蓄積をしてきたのも、近代である。

 本書はアルベール・カミュの作品を批評、分析しながら、その短い生涯を明らかにした“作家論”である。
 しかし、たとえば代表作である『異邦人』(57年ノーベル賞)を、私たちは小説(ロマン・ノベル)として認識しているが、訳者あとがきによると、カミュ自身もそれを物語(レシ)と呼び替えている、という。
 つまり、時代への「参加」という側面では「歴史」書であるという。
 ところが前回の筒井康隆の訳す『悪魔の辞典』(アンブローズ・ビアス 講談社 1911→2000年)によると、「歴史」とは、

 ー だいたいにおいて悪漢である支配者と、だいたいにおいて阿呆である兵士が惹き起こしていた、だいたいにおいてつまらぬ出来事の、だいたいにおいて間違った記述

 とある。

 アンブローズの本は1911年に発刊しているので、前回述べたように、当時に歴史なのか、物語りなのか、いや新たに「小説」というものが独立すべきだ、という揺籃する時期を反映した記述になっている。
 どこがどう違うのか、そもそも何故その呼び名にこだわるのか、それを考える“補助線”になるのが、「ヒストリー(歴史)の初めの2文字hとiを除けば、ストーリー(物語)になるでしょ?」というこじつけがある。
 そのオチはhis―story。
 そうではなく、「小説」なのだ!というのが、カミュにも筒井にも共有されているもどかしさ、である。
 私自身は加えて歌唱(chant―son)が時刻を孕んで成り立つことを強調して、もどかしい想いを、ここで吐露しておきたい。

 『本の森の狩人』はまた次回に。



 

# by ihatobo | 2014-07-26 01:36 | 本の紹介