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『カラスの双眼鏡』(松原始 ハルキ文庫 17年3月)その1

 カラスが特に好き、という訳ではないが、気になるので本書を買ってきた。5月も末になると、夜が明けてくるのが早い。私は夜に一度トイレに起きるのだが、その頃、丁度カラスが鳴くことが多い。本書によると、カラスの行動範囲は都心で100~200ヘクタールだという。
 大概、巣を中心にペアが、その範囲を飛び回る。今、時季は卵が孵って(かえって)、小ガラスが巣立つ。メスが卵を産み、温める。しかし、じっと巣にいるのも疲れるらしく、代わりに気晴らしの間、オスも温めるらしい。それが不公平だ、ということで、オスはせっせと食べ物を集めて回り、メスを養う。営巣(えいそう)もオスの役割である。

 前回のツグミの子育てでは、雌雄(しゆう)の役割までは分らなかったが、カラスが そうならばツグミも同様なのだろう。その知識で、改めて巣を観察してみると、片や無言で巣に入り出てゆくが、もう片方は巣を出る際に「ギァーッ」と高い声を残して飛び去る。
 カラスの方は巣を探してみたが見つからず、雌雄の区別は定かではない。しかし、カラスの場合、鳴き声が異なるのに以前から気づきオトナとコドモの差ぐらいに思っていたが、本書によると種類が異なるらしい。
 私が「ギャーッ」と嗄れた(しわがれた)声をオトナと考えたのはハシホソカラスで、「カァー」と澄んだ高い声の方がハシフトカラスだそうである。ハシフトカラスが一般の認識と一致している訳だ。より詳しく表記すると、ハシホソの方はマンガにある「あ」に濁音を付けた感じである。

 と、まぁ、著者は好きというのではないにしろ、トニカク詳しい。
 まだ半分までしか読んでいないが、夜明けに聞く鳴声を教えている私にとって、色々と合点のいく報告があり、今回は個人的な興味を持ってグングン読んだ。先が、楽しみである。(つづく)
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by ihatobo | 2017-05-26 10:44

『晩年の父』(小堀杏如 1978→81年 岩波文庫)

 本書の著者は、森鴎外の下の娘、杏奴(あんぬ)だが父、鴎外は若かりし頃に医学を学ぶ為にドイツに渡り、その留学生活の中で知り合った女性と恋に落ちた。後に、その経緯を小説『舞姫』に託して書いた。
 そういう訳でもないだろうが、長女・茉莉(まり)、亡くしてはいるが、半子(はんす)、長男が於莵(おと)というように、西欧風の名を彼は自らの子たちにしている。
 それでも父、林太郎は杏奴をパッパあんぬこと呼び、弟をもパッパふりっつ(不律)と呼んで遊んだ、という。微笑ましいというか、子を大切に扱っていた様子がうかがえて、彼の人格に、私は好感を持った。小説嫌いとはいえ、『舞姫』は読んでいたから、本書を知る以前には、ここに語られる彼の人格については、うかがい知れなかった。

 20年程以前に、自分の子に林太郎と付けた友人がいて、その他の「歴史もの」といわれる作品をふたつ、翻訳した『諸国物語』を紹介してくれて、半分ぐらい読んだが本書で語られる鴎外の人格は、うかがい知れなかった。
 しかし、実像を知って諸作品を思い返すと、実にしっくり来る。感慨深い。失礼な物言いだが、可愛いのである。
 本書には、母にも当然言及されるが、母親とは別で、子を想う父というものは、どうも同じらしい。私も父親だが、人が見たら可愛いのだろうか。ともあれ清々しい読書であった。

 だいぶ暖かくなってきたが、自宅前の古いアパートの、ある部屋の戸袋に毎年ツグミが営巣する。今週は、そこにヒナがかえり鳴き声が聞こえてくる。親鳥が餌を運んでくるたびに、すごい勢いで鳴く。
 どこも、親は大変である。両親が、変わる変わるピストン輸送である。忙しい。
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by ihatobo | 2017-05-19 10:11

『猫たちをめぐる世界』(日高敏隆・著 後藤喜久子・イラスト 小学館ライブラリー1993年)

 本書は、89年に刊行されたものの(平凡)ライブラリー版。「これは読んだことがあるな」と思いながらページを綴ったが、微妙に違うなと思っていたら、このライブラリーで「手入れ」や「書き足し」があるようだ。
 そして、ローレンツの息子さんが「病気だと聞いていたので」「トーマスは、いかがですか?」と聞いたら、研究所の秘書さんキッケルトは「トーマスは死にました。そのショックで、ローレンツ先生は心臓発作を起こされ、ずっと休まれておられます。でも、あなただったら、お会いになるでしょう。」
 という経緯を得て、著者はコンラッド・ローレンツに再会するのだが、車椅子ながら元気そうだった彼が、とうとう亡くなるのを暗示して本は終了。しかし、読後感は爽やかである。

 さて、私は池波生太郎が好きで、あれば読むのだが、つい先日、池波の原作(「鬼平犯科帳」)でゴルゴ13のさいとうたかをが作画という、いわばマンガを読んだ。表紙に銘打たれているように、「一気読み」だったが、池波の世界が視覚されているから、読み終わってまた読んでみる。
 そうやって眺めていると、いいシーンがいくつかあって、楽しめた。細部も良く、描画家の生真面目さが伺えて唸った。こちらもオススメである。
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by ihatobo | 2017-05-12 10:14

『愛と苦悩の人生』(壇一雄、野原一夫 編)

 本書も再読である。もうすぐ桜桃忌でもあるし、加えて玉川上水にちなむ井の頭(恩賜)公園の開園100年ということで気になった。
 本書は壇一雄と野原一夫による評伝本で、太宰の作品と彼の日々をよく知る二人が、作品の中の記述と重ね合せながら、太宰の人生を語った共著。一言で、その人生をいえば「ヒトに笑われる」人生だった、と私は思った。決して誉めていうのではなく、笑われる、こんなんじゃ、という。

 しかし、ヒトに後ろ指さされる人生ではなかった、と。中学の頃に彼の作品を教科書で読んでいた。確か『走れメロス』。内容は覚えてはいないが、何やら説教じみていたと思う。そんなことより、私が中学の時分、メルボルンでオリンピックが開催されていた。騒がれていたのは、そのせいかマラソンだった。体育の教師が、いつになく張り切っていたのを覚えている。
 しかし、都心の学校だったから、彼が奨めたのは山登りであった。ともあれ、日本の60年代はそうした体育ブームであり、それが現在にまで尾を引いているのではないだろうか…

 目標は鍛練ではなく、脂肪を減らすことに変わったが。しかし、本書タイトルである「愛と苦悩の人生」を太宰は生き、随所に、その彼らしい繊細を散りばめている。更に、それは私たちの細かさ、弱さを彼は知っていたのだ、と思った。同時に、力強さも彼は持っていたのだ。
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by ihatobo | 2017-05-06 10:40