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『悩む力』(姜尚中 集英社新書08年)

 この時期になると例年「バイト募集してませんか?」というお客様の問い合わせが増える。
 この店は小規模事業所なので、折角の問い合わせにも応えられない事が多い。
 極端な例だが「前橋から通います。お店に泊まってもいいですか」あるいは1~2年おきに電話がかかって来、3年がかりで面接することになった勤め人もいた。
 各々に笑えるやり取りがあるのだが、今月連休明けにやってきた若者に私は絶句した。
 何と答えていいか分らなかったのだ。
 彼は地元の企業に就職できたにもかかわらず、東京で働きたい、と考えたらしく、「2年したら東京に来ますから」その時になったら働かせてくれ、という。
 就職先、進学先など、若者たちが悩む時期である。しかし、その人に替わって受験することはできない。
 もちろんチョコレートの広告のように応援はしているが、彼の人生設計に合わせて相談に応じることはできない。
 普通のオトナだったら「そうなったらまたいらっしゃい」と親しみのある目を向けて聞き流すところだが、そんな悠長なことはいってられない。特にこの2~3年は応募者も店側の担当者も余裕がない。
 何も絶句することはなかったが、彼は私がコーヒーを淹れている最中に席を立ってカウンターまで来、開口一番私の名を呼んだのだった。
 ドリッピング作業中はごく短時間だがハズせないポイントがあり、時計の時間からは出ている。そのポイントで私は顔も上げないキカイである。
 要するに彼は「自分」に曇りがないことにポイントがあり、関わり(問い合わせているが何をポイントにしているか)が目に入らない。自己チューである。彼を採用した相手の担当者にしてみれば、“くちアングリ”絶句である。
 今回は自分の仕事場がサービス業であることを知っている大学教員、姜尚中のベスト・セラー本『悩む力』を再読した。
本書、第一項がその“自己チュー”である。
第一章タイトルが「私」とは何者か、である。
すぐに買った覚えがあったが、本屋店頭でページを開いたものの、このタイトルで「引いた」のだろう。金、青春、信じる者、変わらぬ愛、なぜ死んではいけないのか、と“直球”が続く。「引く」
しかし、本書は同時代を生きた夏目漱石とドイツの社会学者、マックス・ウェーバーの著作を読みながら、ふたりと共に<近代>を語ろうという体裁である。
他の章も含め、喫茶店で日々起こるイベントをやり過ごすのに役に立つ実用書であり、私自身の「行く末」を考えるにも参考になる本だった。
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by ihatobo | 2014-01-30 18:45 | 本の紹介

『フランス文学と愛』(野崎 歓 講談社現代新書)

自分が知っている作家は当地(歴史)や、日本ではどのように受けいれられ、私自身の読後の印象と、何か共通するところがあるのかを知りたくて本書を読んだ。
冒頭から、名だけは知っている、とか、作品のタイトルだけは知っている、固有名が並んでいたが、ぐんぐん読める。分り易く読み易いのだが、それとも少し違っている。
結局読み終ると、その固有名中でも「愛」をめぐる三人の作家は、いづれも何作も読んでいて、あァそういうことだったのか、と、自分の記憶やコトバが様々に浮かんでは消え、また異る色合いを見せて広がった。
その中でもマルグリット・デュラスの作品は比較的数多く読んでいて、最終章に至って、私の最近の興味、関心の方向に理由を与えてくれているようで秘そかに高揚した。
前回の『ヴァイブレータ』(赤坂真理)の中の一節に見覚えがあったのだが、それがサルトルの言葉だったことも確かめることもできた。(『女ざかり』シモーヌ・ド・ボーヴォワール 1960年)
「自由」を、互いの間で「掟て」にすることの馬鹿らしさを、私は店の運営や、当時から評されて伝えられる「ジャズは自由」(セロニアス・モンク)の言及で、その都度確認している。
その文脈でサルトルは「僕たちの恋は必然的なものだ。だが、偶然の恋も知る必要があるよ」と言ったことを、ボーヴォワールは伝えている。
「ジャン・ポールはそこで間違ってしまった」とモーリス・ブランショもそっと証言する。
さて、本書に戻る。
では、恋愛関係にあるふたりにとって、どちらかの“浮気”がトラブルになるのは、本書冒頭のモリエールから一貫して報告され、各々にドラマが紡がれている、というのが本書の内容である。
しかし、ではそのトラブルはどう処理されるのだろう。
とても乱暴な紹介だが、その“フタマタ”を共存させる、つまり、どちらの相手についても本当に心を開いている、その事態に、では「私」はどう思うのか、ということだ。
そのトラブルについての私のフレーズは「心はひとつだから配って歩けない」である…
思いやりがしばしば相手にはプレッシャーになる現代ではあるし。
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by ihatobo | 2014-01-22 21:42 | 本の紹介

『東京プリズン』(赤坂真理)その2

赤坂真理の出世作『ヴァイブレータ』を読んだ。
解説の高橋は「意思だけが、私を動かす」(本文)この作品を-その小説の外側に広がる世界、その小説を産みだしたこの世界の歴史についての、痛切な回想ではないか-と述べている。
小説の中で現在進行している時刻が、それ程に速く、それを書いている当の作家の実作業も多分とても速い筈である。それがとても壮快だった。そのことは、作家のあとがきでも述べられている。
-(編集者によると)この作品はほんとがんばって36回書きなおした-と作家自身が言ったことになっている、という。
つまり、「キーボードを打つ前に画面に字が連なっている」という体験を私は知っており、それらデータの集積をプリント・アウトし、物体化し、書きなおすことは、多分この作 家の常套手段ではないかと私は想像する。
私たちの日常でいえば、それって普通といわれるかも知れないが、そのデータの量が度外れている。
並大抵の「意志」ではない。
今回は12年の大作『東京プリズン』(河出書房新社)を紹介した本ブログと併せてお読み下さい。
というのも、彼女の作品の「構成↔︎表現(表出への意欲)、頭脳↔︎心情、知性↔︎感性」(船山隆)の各々の拮抗が、作業の成果に速度を与えているからだ。
そして、実はこの速度は、喫茶店における「構成↔︎表現、頭脳↔︎心情、知性↔︎感性」の拮抗と重ねることができると、私は考えている。
スタッフには「優しさ」では決してなく「丁寧、親切」にお客様に対するのが"おもてなし"だ、とコトバを使い分けて考えて下さい、と言っている。
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by ihatobo | 2014-01-16 19:10 | 本の紹介

『昆虫という世界』(日高敏隆 74→92年 朝日文庫)

 中古品はCDに限らず、全てが一度はヒトが買った品物である。その前提に例外はあるものの、「コレ欲しい」、と誰かが買ったという事実は、決して蔑ろにできない。ただ、その例外というのは税制など、主に生産者、あるいは、取り次業者、そして書店、レコード店が、前二者から買い取った品物が、資産として計上されるために、ダンピングしてでも中古市場に出してしまう。
 ここにも例外はあるものの、この場合は新品である。(シールドされている場合さえある)
 海外では、この税制上の問題と、日本のように再版価格維持制度がないために、在庫(資産)処分による“ダンピング”は、週単位で行われる、という。
 詳しく知りたい方は税制に関する実務書を見れば分るが、中古品は、基本的に一度は「コレ欲しい」と消費者が商品価値を認めたものであることを、ここでは押さえておく。
 ここから先が楽しいのだが次回に。
 さて、今回は『気象で読む身体』(加賀見雅弘 講談社現代新書)その2である。
 どちらが先かは措いておくが、天候が変われば昆虫が、昆虫が変われば、鳥や小動物、あるいは細菌、微生物のいわばシフトが変わる。
 それらの生活環境の変化による私たちの身体の複雑な変化を、この本は扱っている。
 ならば、という事で、やはりずっと積んでおいた『昆虫という世界』(日高敏隆 朝日文庫)を読んだ。
 タイトルにあるように、昆虫、という世界が、ここに記述されている。
 つまり、人間の視点から観察した昆虫の世界、ではなく、日高は観察者というよりも、昆虫になって生きている奇蹟を、喜びを伴って記述している。
 昆虫の色彩がその機能を果たす、ことを、「美しいものには毒がある」という人間のコトバに置き換えている。
 他にも随所にこの手の置き換えがあり、読んでいる私が昆虫の世界にいるように実感できる。(「虚偽と真実」)
 私のコトバでは知的が昆虫にあるようである。法と秩序もあるし、メスによる配偶者選び、も私には合点がいく。(「愛と死」)
 他にも、昆虫における「時間」、「空間と社会」、と魅惑的な章タイトルが並ぶ。ゆっくり読もう。
 初版は1974年、朝日新聞社。
 ところで、私はアイスクリームが好物だが、今年は年を越えても毎日食べる。私の内的条件によるのか、環境の為なのか。シャーベットくらいなら自分でも造るのだが……
  
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by ihatobo | 2014-01-09 23:31 | 本の紹介

年末年始カード

この店は、オーダー以外にお客様との間に会話がない。つまり、「愛想がない」しかし、おいしい淹れたてのコーヒーはもちろん、メニュー以外に、新譜(CD,アナログ)を聴き、良いものは店で売ります。新刊についても実際に読み、それをブログで紹介しています。(ケッコー忙しい)
それらを併せて私たちの店の“おもてなし”としています。
しかし、それではツッケンドン(突っ慳貪と書くらしい)だということで、年末年始に限って、当店オリジナルのポスト・カードを差し上げています。(6日,月曜日まで)年に一回の“愛嬌”(カードなのに角が立たない)です。
なお、本年より営業時間をお昼12時より、夜中12時までとさせていただきます。ただし、金曜、土曜日は夜中1時のクローズとなります。宜しくお願いいたします。
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by ihatobo | 2014-01-03 22:45 | ニューズ