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『言語学の教室』#2

 前回、仕事場でのコトバ使いには気をつけている、ということを書いたが、このコトバのゆきちがい、誤解の生じるプロセスが、本書で詳しく語られている。
 それは、西欧で古くから議論されている修辞学で使われるメタファー(隠喩)とメノトミー(換喩)に関わるやり取りである。
解説なしでいきなり引用すると、
ー(意味の変化と構文の変化が)共有されるフレームの中での焦点のシフト、という同じ原理で生じている。
何のこっちゃ、と思うだろうが、実にコレが仕事場でのコトバのトラブルの<モト>なのである。
「意味の変化」はコーヒーを淹れる場合、「湯の温度を90℃前後、あるいはちょっと低く」というレシピが実際に記述されて、店に置いてあるのだが、この段階だけでも新人には「意味が変化」してしまう。
 そこで、研修の現場では①湯ポットを火から降す ②豆をグラインドする(2〜30秒かかる) ③カップをふいてフィルターをセットし豆を入れる ④一回目を500円玉くらい注いで20秒むらす、二回めも同様に。 ⑤やっと湯を注いで抽出する。
実際はもっと細かいのだがレシピには以上が記されている。
で、意味によって「構文も変化する」というのは、以上のレシピだと、とりあえず考えてかまわない。
 さて、その後の「共有されるフレームの中での焦点のシフト」を逐一研修の現場で起っているトラブルと比較、分析するのは一苦労なので興味のある方は、当店で研修を受けていただくか、想像しながら本書を読んでいただくと合点がゆくと思う。

 「その共有されるフレーム」とは都市部に喫茶店(カフェ)が、いつ、どこで、どのように成立して来たか、という歴史的な事柄。更に、コーヒー豆の産地、コーヒーの樹の種類、と続き、私の店にやってくるまでの諸々のレシピの実行によってお客様のテーブルに運ばれるまでを含む。そう記述すると、こりえらいこっちゃ、ということになるのだが、仮にここでお客様の前に運ばれたコーヒーを「焦点」とすると、もう一度はじめに戻って・・・ということになる。
つまり、お客様をもてなすということを「焦点」とする・・・ということになる。(つづく)

 今回の積ン読は『2011 危うく夢見た一年』(スラヴォイ・ジジェク)他。
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by ihatobo | 2013-07-31 22:19 | 本の紹介

『言語学の教室』(西村義樹、野村茂樹 中公新書)

 非常に抽象的なのに、とても複雑な対象があり、それに魅き寄せられるという体験を誰しも持っているが、それを「他者性」というコトバで考え人という、やはり複雑なしかし今度は、具体的な「存在」を書き表そうとするのが「哲学」というらしい。
 その哲学者・野矢が、専門である「言語哲学」窮屈さを感じていたところ、本書で展開される「認知言語学」の領域に、自分が知らぬうちに踏み込んでいたことを知り、その専門家である西村にいわば質問者として、教室を開催してくれるよう依頼した問答が本書に記録されている。
 私は、職場場でのコトバ使いには慎重、正確さを課しているが、そのすべてが記述可能である訳ではない。つまりコトバがリアルタイムで交わされているので、ここに述べられているような厳密さはない。
 それでも仕事場で行き交うコトバに問題が起こったような場合、その背景を掴むには本書は大変役に立つと思った。
 そして私に溜まっているコトバの歴史が、とてもスッキリ整理されるように思った。こうした“入門書”が、実はその領域の本質を突いているのである。
ところでエグベルト・ジスモンチが3月に来日していたそうである。
 長く店に通い、ほとんど会話を交わしたことない男性が、今日、前振りなしで「3月にジスモンチ観ました」と話しかけられ、私は驚いた。
 息子さんと二人、彼はギターとピアノも弾いたそうである。最近よく店で流れる『ソロ』(ECM1136、79年)だと思った。この盤は流れる度に2回に1回は「コレ、なんですか?」といった問い合わせがある。「アンド・ゼロ」「フレーヴォ」「サルヴァドール」とプログラムするのだが<鳥の歌>である。良い。
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by ihatobo | 2013-07-26 19:49 | 本の紹介

『沈黙入門』(小池龍之介 幻冬舎文庫 10年)

 今月10日の回『貧乏神と福の神』(水木しげる 集英社 10年)を紹介した時に「今読むと新しい」と書いたが、この夏『水木しげる漫画大全集』の刊行が始まる。しかも、第一期、全三十三巻というから大規模である。
 水木本年91才というから1922年生まれ、私の父はひとつ年上でミャンマー(ビルマ)へ、彼はニューギニアで兵役に就いた。「あんな馬鹿なことはやるもんじゃない」(父)
 彼の描く「霊」「妖怪」は人間と動植物と共に「世界を分有(レヴィ・ブリュル)している」と石川翠は書く。人間と動植物(地球環境)と彼らで世界が成り立っている!?
 この企画の規模が、既に“神秘”である。
 
 さて、私たちの店の標語は、元気、呑気、素直である。30年程以前から、店の作業をこなす動力として自然発生したが、これはどうやら仏教的な考え方(動力)であるらしく現在興味深く読んでいる。しかし、大変複雑な体系?を仏典は持っていて、すぐには紹介できない。
 読もうと思ったのは書名にある「沈黙」である。
 すぐに「サウンド・オブ・サイレンス」の歌詞が浮かび、暗闇を「私の古い友人」と呼んだことに何か関連がありそうだ、とおもったのである。
 詳しくは次回に。
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by ihatobo | 2013-07-19 22:59

『カイン』(中島義道 新潮文庫 02年)

 本書は、哲学の研究者による、手紙形式のエッセー。
 若い学生に宛てた手紙のために、著者自身の学生時代が引き合い出されている。
 ここで述べられている事柄は、恐らく真実であろうが、まず、この設定で整合性を持たせることが前提されている事を承知して読んだ。
その上で、述べられている事柄から、この著者を想像してみる。
 私の身近かに、私がここで想像してみる著者のような人が、確かにいる。
 しかし、それは私の想像であり、哲学的には"表象"である。
 ともいえないのだが、そうではあっても、「著者」のような人を私は知っており、この本を読んで、その人が「何を考えているのか」が分るように思った。
 もちろん余計なお世話だろうが、この「著者」のような人は、「救いようがない」(笑)

 従来、そのような人に対して、私は自分の連続性を一旦停止して、日常的な会話を試みるのを習慣にしている。
 それは喫茶店という装置の機能だから、その接客行為に特別の意味はない。つまり、"世話焼き"であるにもかかわらず「気持ち」は入っていない。(>_<)
 しかし、事後的にその作業によって「気持ち」が乱れることもある。
 それでもその事態が事実であってみれば、時に「気持ち」に♡がつかないとも限らない。

 さて、述べられている内容については、私の哲学に関する知識、思考が足らず、把握することはできなかった。
 しかし、上述のように、私の想像する著者と、実際に私が知っている知人について、たくさんの事を考えることができた。
 そして、誰もが「救いようがない」と相手に感じさせるものだ、ということも分った。
生命が途断えてしまうことを誰も防ぐことはできないのだから。
 もっとも本書が問うているのは、生命ではなく存在なのだが。
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by ihatobo | 2013-07-11 13:31 | 本の紹介

『素数の音楽』(マーカス・デュ・ソートイ 冨永星 訳 新潮社 05年)

 自然(地球環境)が人類を産み出したのは、どうやら事実らしいが,自然や人類に、共通する法則が各々にある筈だ、という風に考えを進めるのは、どうやら性急であるらしい。各々が独自の領域であるとは限らないからだ。
しかし、それらの探求は古来続けられており、各々自然科学、人類(文)科学として蓄積されている。その科学の「小間使い」だったり、「女王」と呼ばれるのが数学である。
本書は「(代)数の原子」である素数の構造、その属性を追い求めた数学者たちの業績(証明、アイデアの論文)を紹介、解説しながら、筆者も素数の本体を探求した読みもの(評伝、エッセー)。

 頁が進むにつれて、その文脈における断言が打ち寄せる波のように、幾重にも出てくる。
ー自分たち(地球環境のうちにいる人類)を生み出しているのは、何らかのこみ入ったドラムだ(というオドリッコの作業・・・)
ー何かをする順序が問題になる時、(それを)「非可換」であるという。

 一般に、混乱としかみえない、つまり、見ているものが何か分らない、それに構造があることを見て取るような場合、そうした対象の観察において、視線の角度を変えたり、その操作の順序を換えたりすることで、構造を探ることができる。
しかし、その対象は「空間にも時にも位置づけることができない。」
それは私たち(東洋)が知っている「混沌」である。そして、 (人が)混沌と名付けると、それは死んでしまった・・・。

 ならば、480頁を超える大冊である本書は、一体何を論じたのだろう。
それでも、記述は明証的で個々の内容をさっぱり把握することができなくとも、具体的で、文は論理的で分かり易い。
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by ihatobo | 2013-07-04 12:12 | 本の紹介

HE+ME=2 第17号のお知らせ

当店の機関誌『HE+ME=2』第17号が完成しました!
今回のテーマは『路上』です。

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by ihatobo | 2013-07-03 13:12 | ニューズ