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当店でのエピソード #2

G.Wの最中、既に30年近いお付合いのAさんが、ヒョッコリと現われた。
彼もまた職業柄新譜を追い続けている。
最近の傾向の情報交換していると、彼から預って売っているアナログの話になった。
「三波春夫がいまないんですよ…」 という。
実に、それが売れ残って店にあったのだ。
来週までに出しときますから、といって店中を探すと、他に河内音頭のシリーズが
見つかった。
“昭和歌謡” がトレンドなのは知っていたが、どうも最大で流行しているらしい。
今回それを返却すると、「いやー、嬉しい。三波さんのもう一枚も欲しいんだけど、
そっちはCD化されてる」 それでもう一回「いやー、嬉しい」
とご満悦で帰られた。
「トランク・ルーム代を払います」といったが、どちらも唸り、沙汰なしとした。
 互いに契約せずに、納品書は手許にあったものの25年余り預り放しの
売却用物品というのも珍しい。
互いに誤魔化しはなく、馴れ合いもない。
そうしたお客様は他にもおり、かといって同好の飲み友でもない。店はそうした
距離を維持しながらどこかで完璧に共感できる方々と共に年月を重ねている。
 その途中、この店が潰れようが、そのお客様が外国に行かれても、
その曖昧な"共感する勢力”は失われない。その勢力とは記憶、でもないし、
そう確信できる場面が日々実現されて、過ぎ去った記憶が、その度に
再現されている、というのが正確である。
 その日か次の日に、今度は知り合いが珍らしくふたり連れでやってきた。
そのお客様はいつもひとりで小一時間を過ごして帰られるのだが、
いつもより早めに連れ立って帰られる時に、当店のロング・セラーの
コーナーで、知り合いではない方の女性が、「私、コレここで買いました」
といってコンボ・ピアノの輝やく第一作を手に取った。
 本作は99年制作で既に13年間も私はこの作品を売り続けている。
その女性を覚えていないのだが、その交流はいつでも再現される。
 次回はそのコンボ・ピアノにまつわる話も面白いので、それをご披露しよう。
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by ihatobo | 2012-05-26 15:22 | ある日

『東北』(田附勝 リトルモア 2011年)

 過日、写真家の田附勝が『東北』(リトルモア)の編集者、浅原さんと共に来店した。
 田附は当時高橋恭司のアシスタントをしていた縁で、彼が私に紹介してくれた。その頃の話をすると田附はいう。「何も分ってなかった」
 というのも高橋の仕事で海外に随行した折に、高橋のマネージャーが彼の動きの悪さに苛立ち『田附、オマエ何がしたいんだ』と詰問したところ「いやー、ゆくゆくは喫茶店ですかねー」と答えたという。開いた口が塞がらない、とはこのことである。
 それから20年近く、今回彼は『東北』で見事木村伊兵衛賞を受賞した。いや立派である。
 今回彼から受賞の際の経緯を聞くと、本ブログで再三触れるように、「世の中、説明してくればかりでさー」と嘆く。
 その写真を眺めていれば、それ以上でも以下でもないことが分る筈なのだが、そうした写真にまつわる諸々も無くならないのもまた事実なのだ。
 しかし、こうした価値のある仕事についてその意味を尋ねたがる“批評家”が多すぎる。その『東北』を買い、これぞという方にただプレゼントすればいいではないか。
 田附も高橋も何故写真を撮っているのか、コトバで説明するのは難しい、と感じているに違いない。
 意図や動機は、例の“線分”問題と同じでゼロから無限大までが、常にモワしているだけに過ぎない。
 私達の店は何の賞も得た事はないが、常に意図や動機はモワしており、それは藪の中である。
 そうした会話を楽しんで、「じゃ、また来る」といって彼らは帰って行った。
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by ihatobo | 2012-05-19 11:16