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『コサージュ』(高橋恭司 月刊人)と『東北』(田附勝 リトルモア)

 今回は写真集が二冊です。 
 二人とも、長くお店を使って頂いている写真家です。
 高橋さんとは既に20年以上のお付き合いで、未刊ですが私のインタビューを受けて頂き、詳しく様々なお考えを伺った間柄です。
 彼は多才で音楽にも造詣が深く、元来は建築が専攻で、また大変な量の読書家でもあります。
 店では例によって、お客様のお顔を覚えてからのんびりとした時間が過ぎ、何かの契機があってようやく名前やお仕事を尋ねる、といった経過が辿られます。
 彼の場合、丁度挨拶が交わされるようになった頃に「あの花撮りたいんだけど・・・」との申し出があり、ようやくお仕事が写真家であることが私たちに知らされました。
 私もその週の花の佇まいが良いと感じていたところだったので喜んで承諾したのでした。
 しかし、後になって考えれば分ることなのですが、彼は超多忙なスケジュールをこなしていて、暫くして8×10をかついで彼が店に現れた時には、花は既に替わっていたのでした。
 それでも彼は半日店に滞在し、世間話をしながら、“何か”が来るのを待っていたのだろうと思います。
 私はその少し前に雑誌記者として殊々同じアーティストを取材していて、彼と現場を共にしたことがあり、その仕事振りを知っていた。
 作業の間、ずっと薄いかすかな緊張が現場を支配しているのですが、その作業は断続的で緩慢です。
 その時に撮影された花が、この『コサージュ』の巻頭に配されていて私は驚いたのでした。
 もう一冊、『東北』は、その高橋のアシスタントとして写真家のキャリアを始めた田附勝の第二作品集です。
 第一作は『デコトラ』(リトルモア 07年)で、その際も7~8年間に撮影された作品集だったが、今回も7年の歳月をかけて撮影されています。
 作風?は高橋のものなのだが、時にクッキリとした人物が撮られる。
 朴訥とした人柄がよく捉えられていて、前作を引き継いでいる。彼のポートレイトも、シャッターが開かれるまでに半日はかかるのだろうことが窺えます。両作品ともおススメです。
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by ihatobo | 2011-09-23 15:21

『子供に関わる仕事』と『赤ちゃんの不思議』

 宗教書の関連/解説本が二冊続いたところで、前回は「無神論者」ボルヘスの文学論となる講義録を紹介した。
 どのめぐり合わせか、この夏の私のコトバ世界はその三冊を中心に活動した。
 宗教書は、ある個人の言動を面白がった人々によるその言動の記録で、当時の識字率を考えれば現代のハイ・テクノロジーによる記号の列であった。
 その記号の列を言って回った人(本人を含むその弟子たち)がおり、それが人々に受け止められ、更に当時の外国地域、国際語へと翻訳されて広まった。
 ボルヘスのいう「超時間性」が、そのテキストに、そうやって備わる。
 こんな大雑把な書き方では正確を欠くことになるが、現在でも事情は同じで、その宗教勢力が形成される初期の過程では、それらの“記号”の列はある個人の直感や体験の開陳とそれを面白がった取り巻きとの間答であるのは事実である。
 中高生の頃にそうした「普遍」的な読み物を紹介され、正直に読み込んでいっても、それをいま読んでいる現在の自分はそこに登場していない、と誰しも密かに感じた筈である。
 さて、今回はその他に『こどもに関わる仕事』(汐見稔幸編 岩波ジュニア新書)と『赤ちゃんの不思議』(開一夫 岩波新書)を読んだ。
 一般に守り、教え育てる対象として<子供>を捉えるのが社会の認識であるのだが、この両著とも、<子供>に学ぶという立場で書かれていて興味を持った。
 “子は親の背中を見て育つ”というフレーズがあるが、実際に子供を育てるとそれはその通りである事が分かる。
 親が子に教え育てようとすることは子には伝わらない。その大部分は親の夢であり、自分が出来ないことを子に押しつけても子は学ばない。
 むしろ、子供の勢いに乗って、危ないことや不躾を正していけば事足りる。
 そのことに感謝して自分のやるべき事柄にまい進していればいいのだ。
 とはいえそれがなかなか難しいのだが・・・
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by ihatobo | 2011-09-11 17:46

『詩という仕事について』 J.L.ボルヘス

 『詩という仕事について』(J.L.ボルヘス、岩波文庫)を読んだ。
 本書は「ノートン講座」という、多分米ハーバード大主催の研究者向けの講座における彼の講義の記録である。
 それは、しかし、テープのまま30年間文字化されなかったもので、00年になってからようやく同大学の出版局が書籍化した、という経歴を持っている。
 内容を通読すると、ここ10年程の間に話題になった古典がズラリと揃っており、素人の私でも、本書のガイドに従ってそれらの書籍が再読されたことが判明する。
 もちろんボルヘス自身の慎ましさ、皮肉、ウィットネスがこれ程大量の書籍に触れることを可能にしているのだが、それらは簡潔・丁寧に案内されている。
 加えて、彼の詩論、短編小説に対する考え、隠喩、翻訳という超時間性、といった具合に大変興味深い事情が語られている。
 おススメである。
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by ihatobo | 2011-09-02 08:24