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『小箱』(小川洋子)その3

 単語の連なりは、その後も続き、とうとう最後まで曖昧なまま終わるのだが、本書途中から音楽に焦点が絞られているのが分かってきた。そして、文のたたみ方が、一時休止を随時重ねていって、リズムを作っている。

 現代音楽(クラッシック)が発展した先で行き詰まり、サンプリングやダブ・ミュージックに分解したように、絶えぬ音楽への情熱が、それらを時間軸に沿って再組織したのに、この物語は似ている。

 小さな命が、そこで終わってしまっても、作者の情熱は決して途絶えはしない。木や生物や岩さえも再生を繰り返しながら、少なくとも私の生きている間は、続くのだ。それを「美しい」従妹は見届けてくれるだろう、という希望を持って、物語は静かに閉じ込められるのだ。

 はたして、この情熱はこの世界のどこを、どのように漂っているのだろうか。巻末に掲げられた参考文献に興味が湧く。と思って本書を探したが、さっきまであったのに、消えてしまった。うーん、最後までナゾに包まれている。

 と思ったら、新刊紹介に棚にあったし。おわり。


by ihatobo | 2019-12-13 09:47