『晩年の父』(小堀杏如 1978→81年 岩波文庫)

 本書の著者は、森鴎外の下の娘、杏奴(あんぬ)だが父、鴎外は若かりし頃に医学を学ぶ為にドイツに渡り、その留学生活の中で知り合った女性と恋に落ちた。後に、その経緯を小説『舞姫』に託して書いた。
 そういう訳でもないだろうが、長女・茉莉(まり)、亡くしてはいるが、半子(はんす)、長男が於莵(おと)というように、西欧風の名を彼は自らの子たちにしている。
 それでも父、林太郎は杏奴をパッパあんぬこと呼び、弟をもパッパふりっつ(不律)と呼んで遊んだ、という。微笑ましいというか、子を大切に扱っていた様子がうかがえて、彼の人格に、私は好感を持った。小説嫌いとはいえ、『舞姫』は読んでいたから、本書を知る以前には、ここに語られる彼の人格については、うかがい知れなかった。

 20年程以前に、自分の子に林太郎と付けた友人がいて、その他の「歴史もの」といわれる作品をふたつ、翻訳した『諸国物語』を紹介してくれて、半分ぐらい読んだが本書で語られる鴎外の人格は、うかがい知れなかった。
 しかし、実像を知って諸作品を思い返すと、実にしっくり来る。感慨深い。失礼な物言いだが、可愛いのである。
 本書には、母にも当然言及されるが、母親とは別で、子を想う父というものは、どうも同じらしい。私も父親だが、人が見たら可愛いのだろうか。ともあれ清々しい読書であった。

 だいぶ暖かくなってきたが、自宅前の古いアパートの、ある部屋の戸袋に毎年ツグミが営巣する。今週は、そこにヒナがかえり鳴き声が聞こえてくる。親鳥が餌を運んでくるたびに、すごい勢いで鳴く。
 どこも、親は大変である。両親が、変わる変わるピストン輸送である。忙しい。
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by ihatobo | 2017-05-19 10:11