『夜想曲』その3(カズオ・イシグロ 早川epi文庫 2005→17年)
二番目の「降っても晴れても」はスペインだったが、主人公はイタリアにも滞在して英語を教えていたりしていた。ヨーロッパ語は、同じラテン語をルーツとしていて、昔から現在のEUの諸国へ、いわば方言として定着していった。
その歴史を生きるイシグロさんは、結果としては、EU語としての英語で、英文学を書いてきた。私から見れば入り組んでいて分かりづらいが、そうした事情よりも、彼の作品は話が面白い。もちろん、その事情も理解した上で読めば面白いのかも知れないが、私は英語も英文学も十分には知らない。
しかそ、この短編には唸った。いちいち中断して、ひとつのステップを踏みしめて、頂上を目指すように読んだ。更に途中で主語が、複数に割れているのか、文がモザイクのように組み立てられているのか、ギザギザとページは進んだ。いや、岩壁を登っているようだ。
丁度22日まで日仏会館でやっている、谷口ジローの世界展にも展示されていたであろう「神々の山嶺」『犬を飼う』(小学館 所収)を読んでいるようだった。才能ある人は、要するに変なのだ。
訳者の土屋政雄は才能の危険を言い、同業の中島は「イシグロは、やはり才能と音楽を類稀な手際で扱う」と書く。
コーヒーや選曲は別として、私には才能はない。しかし、それを駆使して店をやっていく決意は固い。変だろうか?
by ihatobo | 2017-12-29 10:23