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『夜想曲』(カズオ・イシグロ 早川Epi文庫)その2

 基本的に恋愛小説として、この短編集は読めるのだが、何よりも随所にちりばめられたジャズのレコードが、私を和ませる。二番目の「降っても、晴れても」は、マーキュリーのサラ・ボーンによる「パリの4月」で締めくくられるし、例のクリフォード・ブラウンとの名盤である。

 さて冒頭は、チェコからベネチアへやって来た、アルト吹きを迎えるギタリストが、活躍する「老歌手」の話。
 前回の本書のタイトル作「夜想曲」にしてもネルソン・リドルが出演するそばに、ウェイン・ショーターが登場するという具合。それらに通底しているのが、「俺は、まだ透明人間だ」という匿名性の問いや、スター性をめぐる美学的な問題提起。
 
 そして更に、事実には敢然と向き合わねばならないという、倫理も扱われる。

 いやー、さすがノーベル賞を取ったと思った。テーマがデカイ。(つづく)


by ihatobo | 2017-12-02 20:49