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『定本麿赤児 自伝』(中公文庫)

 節分の頃に、若竹の如くグングンと陽が延びるのに比べれば、秋の陽は早々に暮れる。当然、夜明けも遅くなり、鳥が鳴き始めるのも遅い。一日のリズムが変わる季節である。どこからか金木犀の香りが漂うのも最近かである。

 さて、本書は1943年生まれ、私よりも5歳年長の舞踏家、俳優、作家である。私の若い頃は、この世代の活躍が伝わって来て、興味津々だったが怖くもあり、面々の芝居や映画、絵、現代詩/音楽など、それぞれ12回ずつ観に出掛けている。


 花園神社、アート・シアター、文芸坐、数々の個展、いづみ画材店、世界堂、音楽喫茶風月堂、らんぶる、ウィーン、池袋コンサート・ホール、銀座月光荘、佐作画廊…などなど。

日比谷で、『ラスト・タンゴinパリ』(ベルトリッチ/マーロン・ブランド/ガトー・バルビエリ 1972年)を観たのも、この頃。著者は“純朴そのもののオレが…”と書くが、私にはカッコイイとしか見えていなかった。

何を基準に、あんなクネクネとステージを這い回っているのか、さっぱり掴めなかった。それでも終りまで見て帰ったわけだから、理由は定かではないにしろ、魅きつけられ、感動していたのだろう。

ともあれ、著者は、その事情も分かっていて訥訥と書いている。こちらから眺めれば、狂乱乱舞でも本人は舞台の構想を練り、体調を整え、リハーサルして本番へと進むために、そのいちいちを確たるものにしていく。


 その途中で争いがあり、警察沙汰になっても純朴な彼は言い訳せず、開演時間に合わせようと専願する…と本文を読んでほしい。結局は、間に合わなかったのである…。サスペンスやミステリーよりも面白い。

 前回に続いて、『東洋的な見方』その3を書こうと思ったが、本書は出たばかり(8/25)で手に入りやすいので、取り急ぎ、紹介しておこうと思った。安価だし。
 次回は、その3に挑戦して、結びとしたい。



by ihatobo | 2017-09-29 09:51