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『逢沢りく』(ほしよりこ 上・下 文芸春秋 2014年)

 主人公は、母親に理解されない。のだが、彼女の方は母親を人一倍大切にしている。そのアンビバレンツな心情は、屈折するばかり。母親に理解されないくらいだから、クラスの担任やクラスメイトにも敬遠されて、増々、彼女は孤立する。

 彼女は、その環境から抜け出ようと、地方(大阪)の親族のもとへ預けられる。その経緯にも、母親の都合が絡んでいる。夫婦が彼女を疎んじているのだ。共に自分たちの価値観を優先させているのだ。主人公は、そうした思惑を知りながら、冷静に大坂行きを貫行する。
 ちょっと彼女の健気に打たれるが、彼女は読者の私のカンドーは目に入らない。知らんフリである。

 彼女の関心は、その親類の家族の中で同様に孤立している、鳥や病身の子どもに集中する。最終ページでは、何と11ページに渡って彼女は泣く。彼女は蛇口をひねるように、自分の涙をコントロールできたのだが、ここへ来て、それが出来なくなる。
 この11ページの涙は、自然に出た涙にカンドーしている、とも取れる涙である。
 実に爽やかな、ラストであった。

娘を心配するが故に、神経質になる母と、それに応えようとして、生真面目になる娘の物語だと思った。

by ihatobo | 2016-11-18 09:32