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『気ちがいピエロ』(ジョゼ・ジョバンニ ハヤカワ書房 1969年)

 本書は、ジャン・リュック・ゴタダールの最初の長編で、出世作となった『勝手にしやがれ』(1960年 レ・フィルムス・ド・ボードガール)の原案となったミステリーである。ジャン・ポール・ベルモドが演じる主人公は車を盗み、追ってくる白バイに銃を放つ、いわゆる無法者である。

 映画は、それを手持ちのカメラがとる。このカメラが、ラストシーンで決定的な効果を、この映画にもたらすのだが、本書は大変入り組んだストーリーである。リアリストと呼ばれる人格があるが、そうしたコトバがあるとすれば、“事実主義者”であるゴダールは、その作風にも、それを反映させる。
 本書は、その事実の専門家である刑事が主人公、つまり、いわゆる警察ものである。窃盗どころか殺人も許さない凶悪犯が、仕掛けるナゾを追って犯人を追いつめる。スリルとサスペンスが、てんこ盛りである。

 著者のジョバンニは、元警察官で数々の実体験から、エピソードを集め構成したのだろう。ひとつひとつにリアルなディテールが書き込まれている。大変に面白い。しかも真迫力に満ちている。場所はパリ近郊ホテル、カフェ、酒場で、街に住む老人が重要な役割を担う。結末近く、襲撃された主人公に食い込んだ弾丸を抜く場面は迫力がある。「麻酔なんてものは、ないからな」
 出血多量の主人公も弱っているが、ものともせずピンセットを、傷口に差し入れる。しかし、ピエールも気丈さを見せる。しかし、見事抜き取った弾丸が、固い皿の上にコトリと音を立てる。手に汗にぎる場面である。とにかく、面白い。

by ihatobo | 2016-08-19 11:13