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『テロルノ伝説 桐山襲 烈伝』その2 

 本書に併録されている「プレンセンテ」(1989年)を読み、紹介はここまでで充分と考えた。その3年後に、桐山の死後に出版される「未葬の時」が脱稿される。
 全ての人が、未だ葬式の終らない生を、生きているのではないだろうか、という問いかけを、この作品は持っている。「プレンセンテ」も、そうした問いかけで終わっている。

 彼の書いた全作品が、そうした問いと共に、未だ書かれぬ作品が目指されていた、ともいえるのではないだろうか。
 行かえそこで私は、ポルトガル語のサウダージを思い出す。美しいもの、未だ書かれぬ作品に対する郷愁のような心情を、このコトバは持っている。
 月に見てもサウダージ、遠い手の屈めぬものに対しても、サウダージなのである。このコトバは郷愁や運命とも訳すことができる。英語ではロンギングである。
 重訳すれば欲望である。魚が水に環りたいと飛び跳ねるような獰猛な欲望。せつない心情である。本書は、その桐山の作品を叙情ではなく「叙事」として、捉えている。

by ihatobo | 2016-08-05 09:45