『武術の新・人間学』(甲野善紀 PHP文庫 02年 解説・内田樹)

 本書は、武術全般に対して意欲的に取り組んでいる強者だが、彼本来の武具である刃剣について述べられている章では、刃鍛治の作業の全過程に渡る研究が物を言っていて内容が濃い。
 他に、偶然/必然によって知り合った精神科医についての章では、彼を “ 裏の人 ” と呼んで屈託がない。つまり、それだけ研究研鑚(けんさん)を積んでいるから、表面的な診断で相談者(患者)に病名を名付けても、相談者は信用しない、ということを彼は知っているという。
 医者は、クライアント(来談者・患者)と本当にピタッと心が通じ合ったかな、という時は脳の意識に入ります、と述懐(じゅっかい)するそうである。

 著者は、そうした治療の全過程は、剣術の指南と同等だと考えられる。即ち、前章で述べられる麻雀の達人、櫻井章一や保革の逆転のような政治状況についても、裏の意識が表へ回って時代が変わるようにしたことを、著者は事も無げに分析して憚らない。

 ともかく非常に分かりやすい、しかも高度な身体論な本書である。何しろ歩き方、走り方の変遷(へんせん)までが、述べられているのだから。

 つづく
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by ihatobo | 2015-12-15 09:37