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『寺田寅彦 随筆集』(第一巻)その2

 本書の、もう一章「花と病室」(1920年初出)を読んだ。さすが、本書の読後感も一言、「偉い」。
 とにかく、自分が勉強もせず普通に生活を送っている時に、不思議に感じた事柄、ここでは見舞いに訪れた友人が置いて行った鉢植えを、ひねもす眺めていて考えた早々が綴られている。しかし、「偉い」になると、草々ではない。
 三週間余りの入院中に、自分の周囲にも(自分の)内部にも色々の出来事が起こった。色々の書物を読んで、色々のことを考えた・・・。しかし、それについては別に何事も書き残しておくまい、と思う。

 今こうして、ただ病室を賑わしてくれた花の事だけを書いてみると、入院中の自分の生活のあらゆるものが、これで尽くされたような気がする。人が見たらなんでもない貧しい記録も、自分にとっては、あらゆる忘れがたい貴重な経験の総目次になるように思われる。
 これは本書の結びだが、三週間の体験が自分にとっては、「あらゆる忘れがたい貴重な経験の総目次になる」と書き結べるのは、やはり大変なことで色々の事にイチイチ真摯に対応していなければ、こう短くは言えない。やはり「偉い」のである。
 私も、真摯を旨として生活しようと考えた。

by ihatobo | 2015-07-11 09:48