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『寺田虎彦 随筆集』(第一巻 岩波文庫 1947年 全5巻)

 最近、池内 了の編纂で、全5巻が同じ岩波文庫から一冊にダイジェストされて発行された。
 私たちの世代では寺田虎彦といえば、偉いエッセイストという認識だったから、ご多聞にもれず私も、その第一巻を買った。中学の頃だったから、発行から10年余りが過ぎている。手許の文庫本の奥付けを見ると87年の61刷である。前行に63年改訂新版とあるから、その改版を契期に東京オリンピックの前年、親か教師が、その名を口にしたのだろう。
 中学生にとってみれば、親でも教師でも年上が、その名を口にすれば「偉い」のである。そして、それから何年かが過ぎ、ようやく自分が手にしたのが、この本である(そして、それから~と延々と続く)。で、池内のダイジェスト版が出て、また読み返している訳である。

 さて、その第6番目「科学と文脈」に寄せられた『科学者と芸術家』を読んだ。私も、この本との付き合いの長さもさることながら本章の内容も、その全文を紹介したい程に、このところのブログの流れにピタリと重なっている。
 芸術と科学が、その成果だけを見れば相反する領域のように人々は考えるが、どちらも法則と真実を求める点では、真摯であり、その扱領域の範囲が違うだけであるという報告というか「方則」には仰天である。科学というものの、本来の目的が知識の系統化、あるいは思考の節約にあるとすれば(・・・)大きな政策をまとめ、渾然たる系統を立てるのが科学というものであろうとするのは、幼い頃から不思議に感じ、「そういう科学ってないの」と他人には言えずに来た、私自身の想いである。

by ihatobo | 2015-07-07 19:28