『さびしい宝石』 パトリック・モディアノ
沈丁花もほころび、桜、間近かである。
各々の「文学賞」も、何月何日に受賞者が発表されるのだが、季節と同じで定例。毎年、受賞者名が公表される。春が来たから、何だ、という素直じゃない者がいるように、賞を獲ったら偉い。というものでもない。毎年、必ず春はやってくるのだから。
読んだことも、名すら知らないでいたパトリック・モディアノ。昨年のノーベル文学賞の受賞者である。彼の作品『さびしい宝石』を読んだ。面白いし、本質的である。としてみると、賞は、未知の読者に作品を届ける為の宣伝である。私にとってみれば。
本書の内容は、主人公の叔父が、作家であり、数多くの作品を残して自死。主人公は、そこに登場する人物のモデルと覚しき人物を尋ね歩き、自死の理由を探る。その構成が大変面白い物語を紡ぎだす。
特に叔父の愛人、情婦、元妻ら女性の語る記憶が、墟々実々でミステリアス。そうやって叔父を探っていくうちに、作者自身が彼になり代わって、物語作家として成功してしまう。という仏現代社会の作風を踏襲している。問題は、自らの歴史と叙情なのである。
次は、アーネスト・ゲバラの『モーター・リサイクル・ダイアリー』である。
by ihatobo | 2015-03-13 22:20