DESIRE Bob Dylan (ソニー 1975年)
この作品の4曲目が「コーヒーをもう一杯」で、“私が地獄の底に行く前に、コーヒーをもう一杯”と歌われている。
アメリカの主に野球業界で、この文言は常套句であるのを、私は最近知った。
この文言は球界大リーグに昇進したプレーヤーが、ごく短期間で再び二軍に落ちた場合に“彼はワン・カッププレーヤーだったよね”と親しみを込めて、賞賛するような場合に使う。
それを流石ディランは一捻り“地獄(二軍)”に落ちる前に、もう一度チャンスを、と歌った。それを、たった三連詩の各々にリフレイした。
このフレーズがいかにディランに啓示を与えたかが分かる。彼は他曲では、このようにはしない。他、「風に吹かれて」ぐらいではないだろうか。そして、この曲を聴いた人々も、その成りゆきを即座に理解し、このアルバムは破格の売れ行きを残す。
お店の食器棚にも、扉の裏に私が書き写したこのリフレインが残っている。銀色パールの油性ペンで。
ブーメランのように/自分のしたことが/戻ってくる/
その時/ひとつの孤をとおり/凧をくぐってきた
これは最近、刊行された鶴見俊輔の『全詩集』(SURE 2014)の一部。「凧をくぐって」が詩的である。
それを私が知り、ディランの凧に吹かれてを想い出したのだが、鶴見も当時、この歌をきっと口ずさんでいたに違いないと思うと、もうひと重なりディランの「力」が増すように思うのだが、それは私の考えずぎだろうか。
by ihatobo | 2014-12-13 13:13