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『無限の網』草間彌生 (新潮文庫 4月)

店の日常のなかで、この場、この一時が世界や「永遠」に
連らなっている、ひとつの環だと実感することがある。
それは確実な経験で、その場に居合せた者がその体験を共有している。
しかし、その”事件”を後になって書き印すことができない…
 その様な”事件”を仕掛けて、事実としての絵画作品、インスタレーション、
ハプニングを同時進行で記録する。
 本書は、それらの記録の集積であり、当事者、
草間の回想による解説、自伝である。
 彼女はいわゆる近代的な個人として、説明可能な生活を
送って来たわけではない。
そう私がいうのも、一般的な範囲での対人関係から
常に彼女は逃亡しているからだ。
 精神医学では”離人症”と呼ばれる疾患を彼女は背負っている。
一般的な意味での生命感覚、現実感覚がない。彼女が述べるように内/外のない
「奇妙に機械化された環境」を彼女は生きている。
 たとえば、その為に何か(作品や身近の事物)を残しておかなければならない、
のである。それが記録の集積であり、
自分を「とっておき魔」を呼ぶ由縁になっている。
 私自身はそれを「ダラシナイ」といって、
中々店内の整理整頓をしない言い訳にしている。

 次回は更にその上をゆく宇野千代の自伝を紹介しようと考えている。

by ihatobo | 2012-11-02 02:07 | 本の紹介