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[東京プリズン』 赤坂真理(河出書房新社)

 ノンビリと“歴史”小説、“時代”小説を探っているうちに、痛快ヒット作が出ていた。
 私たちの店にはドイツから毎年店番にやってくるスタッフがいるのだが、今年は来るなり坂口恭平原作、いとうたかお主演の映画『MY HOUSE』(企画、監督、脚本協力 堤幸彦)を「観に行きませんか?」と誘われた。
 坂口恭平については、新聞でインタビューを読んでいたので、興味があった。
 いとうたかおについても82年製作の『スロー&スルー』を私は店で売った。(例によって30年間まだ在庫がある、新品、一枚だけ)
 早速映画館に問い合わせたが、既にフィルムは東海、中京地区に回っていた。(7月下旬首都圏でも上映される)
 さて、本書の内容だが、よーく自分の周囲を見回してみれば、この現在、現実の世界にひっそりと“前近代”が息づいている。ということを、類書のようにロマンチックに構想するのではなく、建築家である著者が、土地、建物、所有権、等の問題を本質的に組み替える、その具体的な方法、手続きを紹介した実践記である。
 明快であり、じっくりと検討し、腰を据えて読むべき“実用書”である。タイトルは『独立国家のつくりかた』(講談社、現代新書)
 
 今回はもう一冊、赤坂真理の『東京プリンス』(河出書房新社)を読んだ。
 とはいっても背景を作っている参考資料を読んでいる訳ではないので、精読とはいえない。単純な印象記である。
 メインテーマはTENNOUである。ヤバイ。
 この物語の主人公のように、現在、現実の存在?制度?として「天皇」のことを考えたことは、もちろんない。
 が、かといって知らぬふりを決め込むのも情けない。
 そのように主人公は考えるのだが、私もそこに感情移入して読んだ。
 現在、現実の近代国家には、共和制、王制の他に立憲君主制を採用する国家形態がある。
 英国や日本がそれであり、「主権在民」は共和制と同じだが、その国を旧来統治してきた王が、そこに共存して社会システムを作っている国がある。
 その下で、赤坂はその近代の「個」の問題を突き詰める方法で物語を作ってゆく。
 「人間、男と女と役者」は『リア王』のセリフだが、その役者を“仮面”を被った“個人”(ペルソナ→パーソナリティー)としてみたり、「個」は無数のバリエーションで語られる。
 ――私は今、私の顔を見ることが出来ない。
 それは仮面を着けているのと大してちがわない。
 禅のようでもあり、ヴィトゲンシュタインのようでもあり……
――逆にいえば、一度にひとつを拾うしか出来ない。それが肉体を持つということの意味、個という意味……
 贄、通訳、発語、セリフ、記録……魅惑的なコトバが文脈を作ってゆく。
 本書はファンタジックでありながら「事実」が淡々と語られてゆく。
 思い当たるコトバが満載である。

by ihatobo | 2012-07-28 19:58