『新版 動的平衡』(福岡伸一 2009→17年 小学館新書)

 本書は、2009年に講談社 現代新書として公刊されたものに、加筆・修正した増補新装版。前著の際も紹介したが、今回は増補の分(第9章)で、数学の知見を使ったモデル(理論)を提出している。

 彼がTV番組に出演しているのを偶然観ていたので、この章から読んだ。番組は坂本龍一との対話形式で進行しており、観ている時は良く理解できたのだが、それをいざ知人に伝えようとすると、用語になり各章の順序など曖昧で、語りきれなかった。

 「そのうち出版されるだろう」ということで話は途切れたのだったが、対話の時点で、この部分はカタチになっていたのだろう。本書成立のプロセスは、あとがきに詳しい。それにしても、実に壮大な時刻を詰め込んだ内容を持つ科学の書である。その科学の事実が集積されている。

 その集積のひとつひとつを継いでいって、つまり、解釈することで終わらない。何故かというと本書後半に述べられているように、生命は「自転車操業的」に生命を維持してきたのであって、細胞を造る(生成)するそばから、壊してきたからである。


 著者は、それを本書タイトル「動的平衡」と記している。日常語でいえば「変わってゆく同じもの」である。先の大隅良典さんのオートファジー(自食行動)についても、大変わかりやすく述べられている。

 ぜひ手に取って、本書の数理モデルを眺めて欲しい。


[PR]

# by ihatobo | 2017-07-21 09:14

『色いろ花骨牌』(黒鉄ヒロシ 小学館文庫 2017)

 最近、バタバタと先達が亡くなっているが、何のめぐり合わせか、本書も追悼の書。

「遅れて来た青年」黒鉄ヒロシの切々たる追悼文集である。今も続いているのか「ビック・コミック」の「赤べえ」で知っている年寄りも多いはず。あるいは、TVのトーク番組での的を得たマトモさを知る方も。

 どういう経緯で、本書が成り立ったのか詳しくはないが、登場する人物は皆、偶然好きな方々ばかり。それさえも、偶然なのか。ページが進むにつれて、自らテンションを上げてゆく様が清々しい。と同時に、痛くもある。

 登場するのは、先行する作家、歌舞伎役者、写真家、俳優と多士済々。内容は勿論、賭け事の顛末なのだが、笑えるというか泣ける。

 我が身の行く末を鑑みるように。参考になる本であった。


[PR]

# by ihatobo | 2017-07-14 09:20

『陰翳礼讃』(谷崎 潤一郎 1933/34→中公文庫1975年 解説 古行淳之介)

 本書も気になったまま未読で、今まで来てしまった本。谷崎の名は知っていたし、源氏物語の現代語訳も出ていたから、『卍(まんじ)』『細雪(ささめゆき)』『痴人(ちじん)の愛』など私の知人には、各々の小説の主人公である女性の名前をもらった方が、少なくとも3人はいて、彼には因縁めいたものを感じていたのだが、読まずに終わったのだった。

 本書は、店にやって来た建築を学びに日本の大学へ来た、西欧人から教えてもらった。

谷崎のイメージは、官能や日本的情緒やしがらみ、という風に考えていたのが、それも警戒する要素となっていた。

読んでみると、それは、その通りだったのだが、エッセーというカタチだったから、より直截(ちょくさい)なコトバで彼の想うところが記されている。官能にしても、日本的情緒にしても、分りやすいと言えば分りやすい。


 しかし、谷崎が抱えていたであろうテーマは、彼の生きてきた時代が急速に進展してゆく近代であったために、「便利」が良くても、それでいいのか、というものであっただろう。彼は、あらゆる近代の所産について、それに対抗し得る日本の対象を選び、その利点を強調している。

 それが、陰翳礼讃、即ち本書のタイトルである。

それでも、“私は、我々が既に失いつつある陰翳世界を、せめて文学の世界へでも呼び返してみたい”と記して小説作品の制作に励もうと宣言する。

魅惑的な文の群れである。救われる思いがした。



[PR]

# by ihatobo | 2017-07-07 09:45